Mystery Circle

創造と想像が好きな人々の為に ―ようこそ、奇譚の円環へ。―

弐号機


 ある日、エジプトの姫が、お付きの者に何気なくこう尋ねた。

「誕生日には、何を贈るのが一番いいかのう」

 お付きの者は、真面目くさった顔でこう答えた。

「そりゃでしょ。金に勝るものはありませんよ」
「むぅ。身も蓋もない答えじゃのう」
「だってそうでしょ。姫が身につけてるその無駄に豪華な装飾品だって、元は民から搾り取った税金から買ったもんじゃないですか。違うとは言わせませんよ」
「ひっ、人聞きの悪いことを言うでない! これらは全て、母上から頂いたものじゃ! わらわは……そんな……」
「でも将来的には姫もお妃様と同じようなことをなさるでしょうよ」
 お付きの者は、傷つきわなわなと震えている姫の細肩をがっしと力強くつかんだ。
「ご安心ください。俺はそんな姫の入り婿になって、一緒に甘い汁を吸ってやります」
「誰が貴様なんかと一緒になるか!」
 姫は勢いよくお付きの者の顔面に額をぶつけた。
「ぐはっ! 恐ろしい……自分の石頭を武器にするなんて……姫はそこまで頑丈な身体に……」
 お付きの者は顔を押さえながら姫を見る。
「誰かさんのお陰で鍛えられとるからの」
 姫は胸を張った。お付きの者は不適に笑う。
「ふっ、せいぜい今の内にいい気になってるがいいですよ。エジプト王に、俺はなる!」
「妄想に浸っておれ。ともかく今は、誕生日のことじゃ」
「ところで誰なんですか、姫に誕生日を祝ってもらえる可哀想な野郎ってのは」
「? 何か言葉の使い方が間違っておらんか?」
「え? どこが?」
「いや……」
 姫はふるふると首を振った後、コホンと咳払いした。
宇津木女史じゃ。野郎ではないぞ」
「ほっ、良かった……これで俺の入り婿への道が」
「かぼちゃと決別し、独自に企画を進行している立派な方じゃ。おまえも見習え。そんなに野心に燃えているなら、勝手に国でも創ってればいいじゃろ。着いてくる民がいるかどうかは疑問じゃがな」
 お付きの者の言葉を遮り、姫は冷たい目をお付きの者に向けた。
「いや、俺は宇津木さんみたいな立派な志は持てない肝っ玉の小さい野郎なんで、姫の入り婿でいいですよ」
「そんな大それたこと本人目の前にさらりと言える貴様の肝っ玉の小ささとやらは、この地球と同じくらいの大きさかえ」
「はっはっは。そんな大きいわけないでしょ。夜空に浮かぶ月のようなものと思って頂ければ」
「やかましいわ」
 姫はお付きの者を蹴り飛ばすと、よしとうなずいた。
「決めた。誕生日には、言葉を贈ることとする
「言葉?」
 尻をさすりながらお付きの者が聞き返す。
「そうじゃ。心のこもった言葉をもらって嬉しくない者などおらんじゃろ」
「何言ってんですか。俺がいくら逆タマ狙いの口説き文句を本気で囁いても暴力でしか返さないくせに」
「貴様は少しは自分の言動を振り返れ」
 姫はきっちりと突っ込みを入れてやってから、振り返る。


「というわけじゃ。皆の者、3月4日は宇津木女史の誕生日であるぞ。心のこもった言葉を頼む。
 まずはわらわからじゃ。


 宇津木さん、お誕生日おめでとう! 」