◎起の文
『「ただただぐるぐるぐるぐる」あたしはそうありたくてここに来たのに、たとえばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?』
◎挿入文
『そんなはずじゃなかったのに。そんなんじゃここに来た意味がないのだ。』
◎結の文
『あんたはあたしにしかなつかないと思ってた。』
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『タイトル:フラッシュメモリー』
著者:AR1
「ただただぐるぐるぐるぐる」
あたしはそうありたくてここに来たのに、たとえばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?
自問自答。狂おしい慈しむべき日々はとっくに収束し、衰退し、退化してしまったのだと………そう確信していたのに。
ここに来てなにを躊躇ったのだろう? 空想の言語に捕らわれて、甘美な虚実になびかれて、ここまで我を捨てて決意を固めて、あたしはなにを足踏みするのだろう?
あたしの思考は今、ぐるぐると回転している。そこは少し前まで、愛情と光が渦巻いていた。今は違う。今は劣情と激情だけ。
私怨と私恨の交錯した、理性もが押し流される奔流。
そこにあるのはあたしではなく、今のあたしは鬼になっていた。いや、鬼になっていた「つもり」だった。
理性と言う名の枷を切り捨てて、憎悪と言う名の外套をまとったあたしは、もう恐怖など抱かない。畏怖もだ。あたしにとって上位級はなく、あるのは下級のみ。
今の世界はあたしが最上位。それ以外の概念はない。場所も、時間も、なにもかも。
なぜか? それはあたしが絶対者であるからだ。全ての基準はあたしが決める
――そんな境地にいる。
ああ、異常者だってことは分かってる。多分、正気を取り戻したあたしが今のあたしを顧みたら、顔面蒼白になって倒れるかもしれない。
だがしかし、今のあたしが正気を取り戻すことなどないに違いない。そんなことあってはならないのに、どこかで正常な思考で冷静にあたしを見つめられているのはなぜだろう?
そんなはずじゃなかったのに。そんなんじゃここに来た意味がないのだ。なにも考えるな。今は激情に身を任せろ。
研ぎ澄ませろ。感性をではなく、感情を。槍のように尖らせて、切っ先を鋭く研ぎ上げろ。
幻想のラブソングは終わったのだ。残るは後始末。罵倒はいらない。一撃加えてさようなら。
後ろ手に隠したナイフの柄を握り締める。迷いは消えた。あとは帰り道を待ち受けて、凶器を突き立てれば終了。
そう、全て完了。彼の人生もあたしの人生も、もろとも弾けてパーだ。
あー、まったく。笑い話になりそうなくらいアホなことやってるな、自分。でも、こうするしか選択肢がないなんて辛い自分にも別れを告げたい。
遠くから見ている冷静な自分は知っている。冷笑するくらいあたしが矮小なんだってこと。屑鉄ならいいさ。リサイクル出来るから。あたしはもう、自己をサルベージする気はない。全ては叶わぬことだから、いっそのこと葬りたい。
彼が帰り道にこの公園を抜けることは知っている。恐らく、今日しかチャンスはないだろう。明日になったら決意が覆りそうな、短期的で瞬発的な激情でしかないから。
要は鉄砲水。ダムが決壊して溜まった水が押し寄せるように、今のあたしを突き動かす。しかし、溜まったものがなくなれば、あたしはもとの情けない自分に戻るだろう。
その前にやることがある。その前に殺る者がある。
ザッ、ザッ――
足音。ここは公園、地面は細かい砂利で覆われている。誰かが通るたびにその存在は筒抜けである。
帽子で隠した目線で窺う――彼だ。
立ち上がる。帽子を投げ捨てる。アッ、と彼があたしに気づいたようで、立ち止まったのが足音の停滞で知れた。結末は揺るぎはしない。ほんの一秒、このナイフの到達が遅れるだけ。
軽やかではなく、鉛を仕込んだように重い一歩。エピローグに向けて加速する。
トンッ、という感触。ズズズッ、と差し込まれる手応え。
………………………………ガバッ!!!
おぞましい感触を掌に覚え、思わず重力に逆らって背筋を直立させた。
「…………あー、そうか」
記憶を辿って思い当たる。ここは1LDKの部屋の真ん中。大学の試験が近いので、勉強を伝授してもらっていたのだ。人に頼まなければならないくらい、あたしは頭が悪い。しかも短絡的。人間出来てない、The End。
フローリングに落ちている毛布に気づく。はて、こんなものをかけて寝た覚えはないのだが。
「お、起きたー?」
声にドキリとする。ビックリしたからではない。あの声にはいつも陶然とさせる、麻薬のようなものが仕込まれているのではないかと思う低い声。
「……今、何時?」
「六時半ちょっと過ぎ」
「二時間も寝てたのか、あたし……」
大ショック。二十歳になってとうとう、自慢の体力も衰えてしまったか……脳みそが足らない分、体を資本にするしかないのに。変な意味ではなく。
「気にすんな。試験まで一週間あるし、余裕だって」
「頭がいい人はすぐそう言うんだよねー」
「頭を良くしたんです。最初からいいんではなく」
むう、これは一本取られたのやもしれぬ。
「……で、夢見てたの? うなされてたけど」
うん、と少し恥じらいながら頷く。それが恥じらいで済めばいいものだ。あの時、幾つかの偶然が重ならなければ本気でお互いに三途の川を渡っているところだ。
先程見ていた夢は、途中までは真実に基づく回想である。違う点は、あたしがナイフを持って突進しようとした時、彼がいきなり土下座をして「ごめん!!」と猛省し始めたからだ。
もともとのことの始まりは、あたし達があともうちょっとでカップルになりかけだった、そんな不安定な時期。頭が足らないくせに妙な引っ込み思案をしたあたしは、彼にラブレター――面と向かって言える自身が欠如していたのでメールでだが――を送ったのだ。胸が張り裂ける思いがして待ち侘びた二日後、実にとんでもない返事がメールの文面に踊っていた。
正直、あの直後に理性と言う理性が吹き飛んでしまったので、内容は覚えていない。ただ、やれ「ストーカーのように付きまとうのは辞めろ」だの「君に女性としての魅力を感じない」だの、根源から全否定されたような、そんな衝撃が視覚から全身へと回ったのを、今でも記憶している。
そしてあたしは、果物ナイフを持って怒り心頭、決死覚悟で公園で待ち伏せた訳だ。しかし、彼は土下座した。ものの言い方が悪かったことへの侘びではなく、メールの誤送信であったことに。
要約すると、彼には付きまとわれている女性がいて、あたしとそのストーカー女はほぼ同時期にラブレターを送ってしまったと。彼はその女からの執拗な迷惑メールに悩まされていたらしく、うっかり送信するメールを取り違えてしまったらしい。急いで弁解のメールを打ったのだが返信がなく、血の気が引く思いを体験した、ということだ
「さすがに、俺を殺そうとしてるなんて思わなかったけど」
「あんたが悪いんでしょうが!」
「まあ、そうなんだけどね」
苦笑する彼。今となっては笑いの種。わだかまりはスッキリ解消して、今は円満な未来が見えているということだ。
「あの誤送信は本当に効いたよ。だって――」
思い出を懐かしむように。記憶を噛み締めるように。
「もうあんたは、あたしにしかなつかないと思ってたから」
●《自己批評》
『いつも「乾いている」イメージらしいので、最後に「充足」というテーマを混ぜてみましたー。
…………あのあの、ほほほ、本当にこんなんでいいんでしょうか、俺orz
これじゃ、単に夢と言う「落ち」がついているだけのような気も……
バトルロワイヤル敗退決定ですな……(虚)
(´-`).。oO(作れたら他のも書こっと)』
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『ぐるぐる』
著者:nymphaea
「ただただ、ぐるぐるぐるぐる」
あたしはそうありたくてここに来たのに、たとえばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの。
そんなはずじゃなかったのに、そんなんじゃここに来た意味がないのだ。
力なく道路に膝をついたあたしの前を、農家のおっさんが呑気な顔で横切ってく。
その手が押す荷車の中には、収穫した野菜の他に、芝色をしたわんこが一匹。
あたしの顔を見て「わおん」と可愛く吠えやがる。
違う!あたしは、こんなローカルな空気に和んでる場合じゃない!
それなのに、なんでこんな癒されちゃってんだろう。
そんなもののために、こんな場所くんだりまで来たわけじゃあない。
「可愛い犬ですねえ。柴犬ですか」
八方美人体質を発揮して、おっさんに話しかけてる場合じゃないっつーの。
ついつい微笑んでおっさんと談笑してる自分が憎い。
この前も、これで失敗したのだ。
だけど、わふわふ言いながら、あたしに顔をこすり付けるわんこ、可愛すぎる。
「あんた、好かれたねー。こいつは利口な犬だから、気の良い人を見分けるんだ」
「わ、じゃあ、あたしっていい人なのかな」
「そうそう。かわええ顔してるし」
「やっだなあ。おじさんったら、上手いんだからあ」
あたしは昔ッから、動物だけにはやたら好かれるのだ。
飼い主以外には全くツレないと言われてるペットだって、あたしに掛かればイチコロってもんよ。
わんこと仲良くなったおかげで、おまけのおっさんとも和気あいあいしちゃって、別れ際にあたしの手にサツマイモを握らせてくれた。
「これやるから、焼き芋にでもして食いねえ」
「でもこれって、おじさんとこの商品になるんじゃないの?」
「いいんだ。孃ちゃん、あんた、ここの人なんだろ?」
おっさんが、あたしの背後にある建物を指差す。
あたしがついさっき、耐え切れずに飛び出してきたトコロだ。
逃げ出した瞬間から後悔が始まってたから、もう戻るつもりになってるけど。
「ここの暮らしはつらいだろ。あんな食べ物ばかりで…いつか誰か死んじまうよ。あんたは、あそこまでする必要はねえ。これでも食べて少しは元気出しな」
受け取っちゃいけない事は分かってたけど、おっさんの気持ちがありがたくて、断るなんて出来なかった。
おっさんは去り、あたしの手には太ったサツマイモ。
またやっちまった。この和み癖のせいで、先週は市場で売れ残ったらしい揚げ餅をたらふくもらっちゃったんだよね。その前は鯛焼きのおすそわけだったっけ。
あたしには、そんな余裕ないはずなのに。
全てを切り捨てて、あたしは変わりたいと願ったから、ここに来たんだ。
それなのに、あの生活に耐えられなくて、つい毎週逃げ出しちゃってる。
こんなんじゃダメ。あたしは、やっぱり諦めたくない。
この決心も毎週だけど、挫折するよりはマシだろう。
手にしたサツマイモも捨てようかと腕を振り上げたけど、やっぱりおっさんに悪くてムリだった。こんな感傷が、あたしの甘さ。
サツマイモを抱えなおし、あたしは覚悟を決めて、出てきた建物の扉をぐっと押し開いた。
累々と横たわる屍…じゃなくて、屍みたいに横たわる女達。
その死んだサバのような目が、一斉にあたしを見る。
皆、もう動けないのだ。本当は、あたしもそうでなくちゃいけないはずだった。
そうだ。そうありたくて、ここに来たんだ。
こんなとこでサツマイモ焼こうなんて、思ってる場合じゃない。
「あ、エミリさーん。帰ってきてくれたんですね。おかえりなさーい」
落ち込みかけたあたしに、廊下の向こうから声が掛かる。
どすどすと床を軋ませ、倒れ伏す女達をえっちら避けながら、巨体があたしに飛びついてきた。
「ヒドイですよー。モモ、エミリさんがいなくなったら、一人になっちゃう。ここ、こんな人たちばっかだし」
「あんた、いい加減自分のことを名前で呼ぶの止めたら」
「えー、モモ、そんなこと言われたら困っちゃう」
高い声を出しながら身をくねらせる巨大な物体。困っちゃう、じゃねーだろ。
一見、肉の塊だが、その上部にどうやら顔らしい凹凸がないこともない。
こんなのに飛びつかれて、倒れない自分の身体が悲しくなってくるよまったく。
「あ、それって、サツマイモですよね?やったあ、おやつにしましょうよー」
「オヤツにしましょうよ、じゃないでしょ!バカ。あんた、ここがドコだか分かってんの!?」
「ダイエット道場ですけど」
こんな時だけ、このくねくね巨体はキレ良く答えやがる。
「だけど、いっつも逃げ出して、どっかから食料調達してくるのはエミリさんの方じゃないですかー」
あたしはお相伴あずかってるだけですよぅ。
半ば馬鹿にしてるモモに、そんな風に断罪されて、あたしは地より深く落ち込む。
あたしは、こいつ以下か。
ヘコんでるあたしの腕からサツマイモを奪い、モモは早速庭の落ち葉なんかをマメに集め始めてる。普段からそれだけ動いてりゃ、そんな巨体に育っちゃうこともなかっただろうに。
食べ物に関わる時だけ、妙に小まめに動いちゃう辺り……あたしと一緒。
この子ったら、おバカなデブだけど、憎めないデブなのよね。
でもって、あたしも、きっと人からそう思われてるんだろうな。
ついついつられて、モモと一緒に小枝なんて集めてたら、この庭のボス、チャボのチャチャが駆け寄ってきた。
おいでおいでと手招きして、ふと気付く。
この子、ペット誘惑王のあたしにはラブリーだけど、一応凶暴。もしかしてモモが危険なんじゃ?
だけどそんな心配はご無用だったみたいで、チャチャったら、あたしを素通りしてモモに擦り寄っていく。
巨体はきゃあきゃあ笑いながら、チャボと戯れていた。
鳥、あたしの事は完全無視。むしろ、威嚇までしてくる始末だ。
「エミリさん、すいませーん。この子、他の人に懐かないんですよー」
モモが、チャチャの代わりに謝ってくる。
そりゃ、昨日までのあたしの台詞だったわけで。もしかしなくても、モモがここにいなけりゃ、今もあたしが人に言ってるだろう言葉だった。
だってさ、動物って、冬になるとあったかいモノが好きなわけよ。
人間と違って、服着れないしね。だから、より熱を発してるものにたかるんだ。
そんな理由が分かってるから、あたしはついニヤリと笑っちゃう。
性格悪いね。
でも、ここは「道場」なんだよ。女達の戦いの場、さ。
本能でよりデブを見分けるチャボに、あたしは思わずガッツポーズを送った。
「あんたはあたしにしかなつかないと思ってた。」
●《自己批評》
『ラストの文の使い所が難しくて、冗長になってしまいました。反省。』
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『アスファルトに星屑踏んで
(アタシが猫だった頃)』
著者:なずな
ただただ ぐるぐるぐるぐる・・・・
アタシは そうありたくてここに来たのに、
たとえば アスファルトの光を見ただけで
中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、
何でまだ持ってんの?
* *
始まりは あの猫屋敷の庭。
高2の春から夏にかけて
アタシは学校のある時間、いつもそこにいた。
家にも学校にも
自分の居場所をほんの数ミリだって感じることができず、
ふらふらと当てもなく歩いている時に、
ぐるぐるぐるぐる喉鳴らし、足に纏わりつく猫がいた。
「何 媚売ってんだよ。エサなんかやんないよ。」
かつて猫に好かれたこともなかった。
甘えられる理由も思い当たらない。
擦り寄ってくるこんな小さな生き物にさえ
その頃のアタシは優しくなれなかった。
「ただの、暇つぶしなんだからね。」
振り返りながら先を行く猫の後を付いて行くと その庭があった。
一面の雑草。
曲がりくねった木はてんでばらばら、好き勝手に生えてる感じ。
そんな木々に つる草が何重にも巻きついている。
ガーデニング好きのアタシの母親なら
広いのにもったいないと悲鳴を上げそうな、そんな庭だった。
そのあちらこちらの陽だまりに10匹を軽く超える猫たちがいて
うつらうつらしたまま、またはペロペロと毛づくろいをしながら
新参者のアタシを 当たり前のように受け容れたのだった。
* *
そこから少しの間 遠ざかった期間がある。
秋草が庭いっぱいに広がる頃 アタシは勘違いな恋をしていた。
その人がアタシの、「やっと見つけた唯一の居場所」だと思った。
嬉しかった。幸せだと思っていた。
居心地のいい大事な場所になっていたはずの猫屋敷の庭のことを
数の内に入れるのを忘れてしまってたのは
認めたくないけど アタシがやっぱり
「人のいるところ」を切に望んでいたからだろう・・と思う。
勘違いな恋は、ありがちな終末を迎えた。
キミはまだ子どもだから と言われ、
自分をもっと大切にしなさい と言われ
あれこれご立派な理由をつけ、
その男は妻と子のもとに戻ったのだった。
* *
何もかも嫌いになって 誰も彼も嫌いになって
たどりついたのは 相変わらずの その場所。
猫屋敷の庭だった。
のそのそやって来てピタリ寄り添うように座り
ぐるぐるぐるぐる・・・
アタシの傍に例の猫が来て喉を鳴らす。
ぐるぐるぐるぐる・・
不思議な振動が伸ばした指先に伝わってくる。
快感?安心?それとも信頼?・・まさか愛情?
そう思った自分が バカみたいに思えて
そいつの鼻先をピンとはじいてみた。
猫は驚いて少し離れたけれど 別に気にするでもなく
背筋をひゅーんと伸ばして大あくびし
座り直し、丸くなり 気がついたら 眠っていた。
そんな風に自分勝手にくつろげる猫が
憎たらしくて 羨ましくて
「猫になりたい。でなきゃ、死んじゃいたい。」
地面にうつぶせになって手足ひっこめて 猫のように地面を掻いた。
秋草の枯れた地面の土は冷たかった。
*
「じゃ、猫になってくれる?」
突然話しかけられて驚いた。
「2のBのキシカワさんだよね?」
ひょろりと背が高い男子、うちの学校の制服。
同年齢にしては幼い笑顔が アタシの名前を口にした。
さっと起き上がり 身構える。
敵とは思えないけど、ずけずけ踏み込んでくるヤツは嫌いだ。
「へへ、ほんとに猫みたいだね、キシカワさんってさ。
オレ 隣のクラスのマツオカ。」
この笑顔を 知ってる気がした。
でも思い出せなかった。
「睨まないでよ・・・ここ オレんちの裏庭。」
マツオカ君はしゃがんで
擦り寄ってきた2匹を いっぺんにぐしゃぐしゃ撫でながら言った。
*
マツオカ君には お姉さんがいるという。
ユリハさんというその人は 結婚してこの猫屋敷から出て
そう遠くないところで暮らしているらしい。
色々な事情で 精神的に参っている上に、
可愛がっていた猫まで どこかに行って戻ってこない。
「いわゆるペットロスっての?もう壊れかけ、うちのねーちゃん。」
だから 通い猫のように ふらりと気が向いた時でいいから
アネキの様子を見てきて欲しい・・バイト代払うからさ、頼む。
マツオカ君は言った。
「アタシ、猫です、とか言ったら、きっと信じて喜ぶから。」
「まさか。」
「なんせ、壊れてかけてっから・・・。
それに キシカワさんって そーとー猫っぽいし。
家に上がって ぐるぐるぐるとか言ってさ、 ねーちゃんの心を癒してくれたら
あとは 昼寝でもなんでもテキトーにして、飽きたらフラッと帰ったらいいよ。」
「でも・・・何で?」
「ひとりでほっとくと死んじゃうかもしれない。だから。」
傍から見たらトンデモナイ話に心捉われ、壊れていく大切な友人を
必死で引き留めるため、その人の所に通う・・・
そんな話を どこかで知ってる気がした。
映画だったかドラマだったか・・小説だったかもしれない。
アタシは色んなことを 色んな大事なことを
何にも思い出せないでいた。
*
バイト代といって マツオカ君がポケット裏返して出したのは
ほんのぽっちり、バス代とアメ3個、
コロリとビー玉がひとつ、転がり出した。
「何で こんなの持ってんの?」
アタシが言うと、マツオカ君は結構真面目な顔で
「ビー玉 覗いたことって、ない?」
断るアタシに まあいいから、って ビー玉まで押し付けた。
「どーでもいいんだけどさ。
どーせアタシは他に行くところも することもないし。
でも、責任は取らないよ。アンタの姉さんがどうにかなっちゃったって。」
わざと投げやりに言ってから
アタシはその人のところに行ってみることにした。
誰の気持ちにも、もう振り回されたりしない。
何がおきたって アタシはもう悲しんだりするもんか
・・ポケットのビー玉のつるりと冷たい感触を確認しながら そう思っていた。
* * * *
マンションの庭付き一階・・・猫としてはチャイムより庭からだろう・・
フェンスを乗り越えて潜入した。
フェンスから スチャっと飛び降りるとき 猫の気持ちになった。
開け放たれた庭に面した窓、そっと覗くと
スラリとした髪の長い女の人の後姿が見えた。
パソコンに向かっているけれど キーボードを叩く様子はない。
その日は そのままずっと庭にいて様子を見、
帰ってからマツオカ君に
ユリハさんの様子をごくごく事務的に報告した。
次の日 同じように庭にいると ユリハさんは
窓を開け、隠れようとしたアタシを じーっと見た。
まるで 猫好きの人が
猫の意思を尊重しながら 徐々に仲良くなろうとするように
ユリハさんは身体をかがめ、少し目を細めてアタシを見、
小さな声で「ニャー」と言った。
あまりの展開にアタシはうろたえ、隣の庭との隙間に逃げ込んだ。
何だかほんとに猫になった気分だった。
帰りのバスで料金箱にお金を入れ、シートに座っても誰も気にしない様子を見て
改めて、やっぱアタシは「にんげん」らしい・・そう思った。
だから嬉しいとは 思わなかったけど。
* * * *
親の諍いやらアニキと親の揉め事やら 家はますます険悪だったし
そんな親が世間体のためだけに 学校に行ってくれと言ってるのが
見え見えで、たまらなくウザかった。
「親友」だったマキも 上手くどこかのグループに入れたみたいだし
今更のこのこ 出て行きたくもない。
誰?と聞かれて「猫です」と自己紹介をすることを想像しては ひるんでいたが
ユリハさんは 数日通っても、アタシに何も話しかけなかった。
本当に私は猫に見えてるんじゃないかと思うほど
ユリハさんのアタシに対する態度は相変わらずだった。
ユリハさんは庭の網戸を少し開けたままにして
目線だけでアタシを自然に室内に招きいれた。
部屋の中はほっこり暖かくて、
清潔で 静かで 居心地が良かった。
帰りに猫屋敷の庭に寄る。
マツオカ君はとびきりの笑顔で アタシの面白くもない報告を聞き
例の猫は「お帰り」とでもいうように アタシの足に擦り寄ってくる。
「べたべたすんな。どうせ誰にでもそうやって媚売って生きてんだろ?」
甘えた猫は嫌いだ・・・
アタシは いつもわざとその猫に冷たくした。
*
それから毎日 アタシは部屋の一番暖かい場所で
ごろごろうとうとしながら ユリハさんの様子を見守った。
アタシがそこに居ることが
ユリハさんにとってどんな意味があるのか 全然解からなかったけど、
人の気配のする静かな空間は アタシにとって心地良い場所だった。
ユリハさんは 時々独り言を言いながらうろうろしたり
たまに座って、ぽそぽそとパソコンのキーを叩いていた。
ぼんやり画面を眺めている時間も 相当長かったが
落ち込んだり ふさぎ込んだり 泣いたりしてはいなかった。
「落ち着いてるみたいだよ。」
ユリハさんのことをマツオカ君に報告すると
マツオカ君は 満足げにうなずいて
「良かった、良かったぁ。
ありがとう、キシカワさんがいてくれて、ホントに良かった。」
いつもマツオカ君が猫にやるのと同じように 頭をぐしゃぐしゃ撫でられた。
何だか照れくさかった。 頭の上が温かかった。
帰り道、ポケットに手を入れると コロンとした物に触れた。
取り出して、空に向けて持って覗いてみる。
水の中にいるような 宇宙にいるような 不思議な気持ちになった。
こんな風に ビー玉を飽きずに覗いていた時があったっけ・・
アタシは すっかり忘れていた小さい頃のことなんか ふと思い出したのだった。
*
何もかもどーでも良くて 無感動なっていたはずだった。
なのに 猫の目線になって、窓から外なんか眺めているうちに
小さな自然の変化だとかそういったものに 目がいくようになっていた。
ユリハさんが 窓の外を見てさりげなく呟く言葉は
アタシに小鳥のさえずりや 季節外れの花つぼみや
ぺたりと地面に貼りついて春を待つ草の存在を 気づかせてくれた。
ただただ ぐるぐるぐるぐる・・・・
アタシはそうありたくてここに来たのに、
たとえばアスファルトの光を見ただけで
中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、
何でまだ持ってるんだろう・・
いつもよりユリハさんの部屋に長居した日の帰り道
雨に濡れたアスファルトが 外灯の光でキラキラするのを眺めながら
そんなことを 思ったりもしたのだった。
* * * *
そんなはずじゃなかったのに。
そんなんじゃここに来た意味がないのだ。
*
夜にユリハさんを訪ねるのは初めてだった。
家にいるのが嫌だったのも確かにあるけど、ユリハさんのこと、気になっていた。
ユリハさんのご主人は 事情があって家に帰らない、と聞いていた。
夜はまた シンとして寂しいのだろう・・そう 勝手に思っていたのだ。
けれど カーテンの隙間から見えるユリハさんの部屋は明るくて
いつもはついてないTVの音がして 賑やかな笑い声がした。
─ 嘘だろ・・?
まるで 別の家を見るみたいだった。
いつもの部屋に丸い座卓が置かれ、鍋を囲んで談笑するユリハさんがいた。
一緒に鍋をつついてるのは、マツオカ君ともう一人
・・ユリハさんの夫・・?
ユリハさんはごくごく自然に、喋ったり笑ったり食べたりしている。
何が何だか解からなかった。
ほかほか湯気のたつホームドラマのような光景。
そこにアタシの入る場所は なかった。
ガタン・・
後ずさりしてフェンスに背中をぶつけ、大きな音をたててしまった。
マツオカ君が気づいた。
ユリハさんが気づいた。
窓が開いた。
アタシは 猛ダッシュで逃げ出した。
何で逃げてるのかさえ 解からなかった。
*
ここはマツオカ君の家に庭で ユリハさんの実家の庭で
アタシの場所じゃない。
解かっていたのにまた ここに逃げ込んできた。
いつもの猫がすぐに気づいて 迎えてくれる。
アタシは悲しくて悲しくて
どういうことなのか考えるより ただ悲しくて
庭にしゃがみこんで 擦り寄って来た猫を抱いて 泣いた。
泣いてるうちに一つ思い出したことがある。
まだ学校に時々行ってた頃、
図書室で本を読んで 不覚にも泣いたことがあった。
その時 図書室にいたのが マツオカ君だった。
名前も 学年も知らなかったけれど
顔を上げた時目が合ってしまったのを憶えている。
そして、その時の本が あの思い出せなかった物語だったのだ。
主人公はもっと純粋な女の子で、
「壊れてしまいそうな大切な人」や 傷ついて引きこもった親友のために
もっともっと一生懸命だった・・。
「やっぱ、ここだった。」
振り向いたら マツオカ君とユリハさんが立っていた。
ユリハさんは 猫とアタシをいっぺんに抱きしめた。
「ごめんね。どう説明したらいいかしら・・。」
*
「ずっと あなたが気になってたの。
だから 弟に頼まれたあなたが うちに来るのを楽しみにしていたのよ。」
ユリハさんは言い、マツオカ君が続ける
「アネキが仕事してる時って傍から見てて、相当ヤバいんだ。
壊れかけの人に見えるかどうかは解からなかったけど
とにかく キシカワさんをアネキのところに行かせてみたかったんだ。」
マツオカ君は何度も何度も謝りながら、
ユリハさんが文章を書く仕事をしていること
学生時代、学校に馴染めなかった時期があったこと、
そんなこともあって アタシときっと話が合うだろう と思ったことを
一生懸命説明してくれた。
「久しぶりにキシカワさんがうちの庭にいる・・と思ったらさ、
『猫になるか、死にたい・・』なんて ヤバいこと言ってるしさ、
ほっとけないじゃん、 何とかしなきゃって思ったんだ。」
「久しぶりに・・って、アタシがあそこに来てたこと ずっと知ってたんだ。」
「あれ、猫と自分だけだと思ってた?あの庭が好きなのって。」
だって 雑草だらけで・・猫がやたらくつろいでて・・
アタシは続けようとしたけど もう一つの事の方が もっと気になった。
「何とかしなきゃ・・って アレはその場の思いつきだったの?」
・・・怒る気には ならなかった。
ぐるぐる喉を鳴らして猫が顔中舐めまくるせいかもしれない。
「泣いてたでしょ?本読んでさ。あの後オレも読んだんだ、その本。」
良かった・・だったか 切ないだったか・・何の涙だったかも忘れた。
アタシは図書室なのも忘れて ぼろぼろ泣いたのだった。
ユリハさんは ゆっくりとした動きでアタシの傍にしゃがんだ。
「仕事の都合でね、半別居生活なのよ。これがダンナと私の’事情’ね。
そして、ペットロスで壊れかけ・・はちょっと違うんだけど・。」
ユリハさんはそういって 猫の背中をポンポンと撫ぜた
「このコ・・珍しく弟に懐かない猫でね、
結婚したとき 私があのマンションに連れてったんだ。」
猫はユリハさんの顔をチラと見たけれど すぐにアタシの膝の上で座り直し
アタシの指をペロペロ舐めた。
「悔しいなぁ・・やっぱり あなたの方が好きみたい。
このコを連れていくために わざわざペット可のマンション、探したのよ。
なのに、このコはあなたを案内してこの庭に戻って、
あなたが来ない間もここで待ってて、
私の所には 帰って来なくなったんだ。」
「アネキんところから姿を消したって聞いてたのに
ここでキシカワさんに甘えてるの見た時は オレもマジ驚いたんだ。
図書室の件もあったし オレ、ずっと気にしてた。キシカワさんのこと。」
「ごめんね、結果的には騙したことになっちゃったよね。
でも 弟は許してやってね。
とんでもないバカだけど、けっこうイイとこもあるんだ、コイツ。」
いい きょうだいなんだな・・。アタシは二人を見て思った。
そして バカなアタシはやっと気づいたのだった。
マツオカ君が言ってた『ひとりほっとくと死んじゃうかも』しれないのは
壊れそうだから誰かの助けが必要だったのは・・
ユリハさんじゃなく アタシのことだったのだ。
誰かから心配されてたり 何とかしてあげたいなんて思われてたのが
テレくさいけど ものすごく素直に 嬉しかった。
「アネキがいつまでもキシカワさんに「猫」させてたのは きっとさ・・
アネキのヤキモチなんだと思うな。」
マツオカ君はそう言いながら アタシの膝の上の猫を指差して
耳元で こう言った。
「コイツってさ、アネキは 自分にしか懐かない猫だと思ってたんだ。
ま、ほんとに警戒心の強い、愛想のない猫なんだけど。」
* *
帰り道 ユリハさんとマツオカ君と一緒に歩いた。
気づかない内に降っていた小雨が止んで 濡れたアスファルトがきらきらしていた。
「星屑踏んで歩いてるみたいだねっ」
マツオカ君が はしゃいだ声で言った。
猫がアタシの両足の間をしゅるりしゅるり歩く。
さっきマツオカ君が耳元で言った言葉を思い出していた。
「アンタのこと 誤解してたよ。」
猫に 謝った。
もうひとつ 思い出した。
─ 隣のクラスに 猫のことと雑草の名前だけ やたら詳しい男子がいるんだ。
親友の・・マキがアタシに言った。
─ その子さ、成績はサイアクだけど むっちゃいいヤツなんだって。
自分の口元が緩んでいることに気がついた。
トクン、トクン、
身体の中全体に新しい温かい血液が流れ出して
新しい やわらかなアタシが出来上がっていくような感じがした。
─ あの庭に花が咲き始めたら マツオカ君に草花の名前を教えてもらおう。
アタシは 春の庭のことを考える。
ポケットのビー玉の丸さが 指先に気持ちよかった。
「あ、私帰らなきゃ!」
ユリハさんが 素っ頓狂な声を出した。
「ダンナのこと忘れてたわ。オトウト、ちゃんと彼女送って行くんだよ。」
ユリハさんに何か言いたくて でも何て言っていいか解からなくて
横にいるマツオカ君の 顔を見上げた。
ユリハさんはそんなアタシの上から下まで とびきり優しい目で見ると
初めて会ったときみたいに 少しかがんで目を細め
アタシに向かって「にゃー」と言った。
それからマツオカ君のほっぺをツンと突っついて
アタシの頭を ぐしゃぐしゃ撫でて 言ったのだ。
「ふふふ、アナタもよ、私にしか懐かないのかと思ってたわ。」
●《自己批評》
『長くなってしまいました。
飽きずに読んでいただけるのか心配です(^_^;)
文中の「あの本」は 森 絵都さんの「つきのふね」です。
とても 好きな話です。』
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『桜』
著者:暇子
「ただただぐるぐるぐるぐる」
あたしはそうありたくてここに来たのに、
たとえば・・・
アスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?
昨日、愛していた人と分かれたあたし。
この桜並木を通って、これから病院に行く。
少し遠回りになるけどこの道を通りたかった。
桜の花はまだ咲く気配も無く、
ただごつごつした枝だけが冷たくあたしを見下ろしていた。
先月、まだ雪が残ってた時あの人とここを通ったっけ。
桜が咲いたら見に来よう、なんてよく言えたものだわ。
これからあたしは、愛した人の、子を、堕ろしに行くのだ。
愛していたのはあたしの方だけだった。
まさかこんな結果になるなんてね。
『オメデタデスヨ』
妊娠を知った時、不安と共に少しだけ幸せな未来を夢見てしまった。
結局は叶わぬ願いだったなんて、笑えない。
何も考えたくない。
何も見たくない。
このお腹の中の命と共に、思い出も何もかも消えてしまえばいいのに。
気持ちが悪い。つわり?
あたしの中で生きている命。これからあんたを殺しに行くのよ。
待合室では、赤ちゃんを抱いた母親が幸せそうな笑顔で話しかけてきた。
「1ヶ月の健康診断なんです」
そんなことどうでもいい。
ヤメテ。
話しかけないで!
あなたとあたしは違う道を歩いているのよ。
あたしの暗い顔に気づきなさいよ!
何の罪も無い幸せそうな母親に憎しみすら覚えてしまう。
母親に抱かれて眠っていたと思った赤ちゃんが突然泣き出した。
自分の母親に対するあたしの思いが伝わったかのように。
こんな小さな体から想像出来ないような力強い泣き声だった。
『必死で生きてるんだ』嫌でもそう思えてきた。
「ごめんなさいね」母親があたしに謝った後、
立ち上がって赤ちゃんを揺らしながらなんとか泣き止ませようとする。
何で謝るのよ!
『あたしはあなたと違って幸せでごめんなさいね』
こんな風に思ってしまう自分が情けなくてまた苛立つ。堂々巡り。
問診で、医者はあたしに念を押す。
「本当に、いいんですね?」
夕べ出し尽くしたと思っていた涙がまた溢れてきた。
後悔はしない答えを出したつもりだったのに。
キチンと気持ちの整理はつけたはずだったのに。
どうしよう、どうしよう。ドウシヨウ、・・・ドウシタイノ?
あたしは・・・
さっきの母親のようになれるかしら?
父親のいない子供でも幸せになれるかしら?
本当は産みたいに決まってるじゃないの!
頭の中で何が起こっているのか自分でも分からないまま、
ただ泣いていた。
気が遠くなっていく。
どれぐらいの時間が過ぎたのか。
病院のベッドの上で目が覚めた。
子供は!?
気持ちが悪い。どうやらまだつわりがある。
という事は、まだ居るのね?
こんなはずじゃなかったのに。こんなんじゃここに来た意味がないのだ。
「目が覚めた?」看護婦があたしに優しく話しかけてきた。
「今日はもう遅いわ。この個室、今夜は開いてるから帰りたくなかったら泊まっていくといいわよ。時間が許す限り、私が何でも話を聞いてあげようか?」
「話したくありません」
「じゃ、代わりに私の話を聞いてみる?」
聞く気など無いのに看護婦は勝手に話し始めた。
「私ね、先月まで不倫してたの。」
だから何?って言いたくなる突然の話題。
あたしが返す言葉に困っていると、看護婦は自分のお腹を擦りながら続けた。
「でも、この子は、産むわ。」
「え・・・」
「私一人で育てるの。相手は認知してくれないらしいし。お金も要るからギリギリまでここで働くつもりよ。先生も無理のない程度に置いてくれるって言ったわ。」
あたしと同じような状況のハズなのに、
彼女の顔はあたしと違って自信に満ちていた。
いや、彼女もきっとツライ思いをしたに違いないのだ。
あたしも時がたてばこの人みたいに強くなれるの?
どのくらいの時間が必要なのだろう。
それまでお腹の子供は待っていてくれるだろうか?
あたしは、まだ弱い。まだまだ、弱いのだ。
あたしは、強くなんてなれないんだ。きっと。
「あのさ、」彼女はあたしの顔を覗き込んだ。
「子供の月齢も近くて、会って話せるぐらい身近なシングルママってなかなか見つからないのよ。あなた、一緒に産んでみない?」
「は!?」
新入生に『一緒にお昼たべない?』なんて誘うような気軽さで、彼女はあたしの人生を決めてしまうつもりだろうか!?
「どちらに転んでも、必ず後悔は付いてくるものよ。」
確かにそうだ。今、どうしたらいいのか自分でも分からない。
正しい答えなんてどこにも無いのかも知れない。
ただひとつ、確かなこと。
それは、
このお腹の中で、確実に生きているちいさな命があること。
また涙が流れてきた。
人間が1日に流せる涙の量というのはどうやら決まっていないらしい。
それとも、1年間を平均したら同じぐらいの量だったりするのかな?
あたしは今初めてて知り合ったばかりの看護婦に、心の全てを打ち明けた。
自分でも何を話しているのか分からなくなっていた。
彼女は優しくあたしの肩を抱いて聞いてくれた。
朝、目が覚めた。
あたしは心にしっかりと決めたことがあった。
もう迷わない。
あたしは一人じゃない。
「おはよう」昨日の看護婦・・・ユカさんが来た。
あたし達は約束した。
お互い、強く、生きていくこと。
片親同士だけど、必ず子供を不幸にさせないこと。
1年後、春。
あの桜並木の下で、ユカとあたしは並んでベビーカーを押していた。
満開の桜だ。
あたし達は妊娠中もよく会って色んな悩みや感情をぶつけ合い、
一番心の許せる仲になっていた。
もちろん子供を産んでからも、二人、手探りで『育児』というモノをそれなりに頑張っている最中だ。
「うちの子のちょうど1ヶ月後だよね。」あたしの子は、そう言って抱き上げたユカにも愛想良く笑っている。
「あたしはこれぐらいの頃からもう人見知りが出てきて、お母さんじゃないと泣き出してたって聞いてたのに。」ユカに抱かれた自分の子を見ながら言った。
「あんたはあたしにしかなつかないと思ってた。」
「生まれる前からよく一緒に居たから、覚えてるんじゃないの?『ママと同じ匂いがする』ってね。」
ユカが笑って言った。
桜の木は、あの日とは違う優しい顔であたし達を見下ろしていた。
●《自己批評》
『お疲れ、俺。
らしくないモノガタリになってしまいました。
少し無理があるが、綺麗にまとまってヤレヤレです。
もう少し長くしたかったけど、どこをどう付け足したらいいのか分からないのでやめときます。
そういうトコはまだまだ未熟だなって思いますね。
ケツの、いや、
結の文の後に少し文が入っちゃってるけど問題茄子!!!!!!
気のせい、気のせい。
今回、間の文が入った以外はいつもとやることは同じなのですが、
みんな同じお題ってコトで、かぶる可能性もあったわけです。
かぶるのだけはイタイので、意外なテーマを選びました。
まさかコレかぶってないですよね?ね!?』
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『誕生日』
著者:ネコタ
「ただただぐるぐるぐるぐる」あたしはそうありたくてここに来たのに、
たとえばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?
そんなはずじゃなかったのに。そんなんじゃここに来た意味がないのだ。
あたしは不幸な女。
気がつけばもう三十路まであと24時間。
あっという間に過ぎていく時間を、5年もアイツに費やした。
それがどれだけ貴重な時間だったのか、全然わかってない。
好きじゃないサザンのライブにも行ったし、
顔がベタベタするのが嫌なのに、焼肉だって食べに行った。
休みはあなたに合わせるために、有給のことで会社とケンカしたし、
あなたの洗濯物は週末に全部あたしがやった。
あたしは尽くす女なんかじゃない。
「好きでやってたんだろ?」なんてどうしてそんなことしか言えないの?
一体あたしの何を見てきたの?
本当はELTのコンサートに行きたかった!
本当はあの時パスタが食べたかった!
本当は・・・・・ただ一緒にいたかった!!
遠くで、キャッキャ キャッキャ 女の声がする。
彼氏であろう男の皿に、肉を盛る。
怖いくらいの、キラキラした彼を見る目。
目の前の焦げた牛タン。一人じゃ食べきれない不幸な女。
一体あのカップルのにはどう映ったのだろう。
「おじさん!おあいそお願いします!!」
20代は、あと20時間しかないじゃないの。
フー・・・。
たらふくおいしい焼肉も食べたし、
さーて、帰りは今日発売のサザンのCD、買わなくちゃなぁ・・・・・。
残り少ない時間、思いつくのはやっぱそれか。
気がつけば、あなたしか見つめてない、恋に恋してる女に成長してた。
この5年、精一杯恋した。
ただ、それだけ。
これからはあたしにだけやさしい男を見つけよう・・・。
さ、記念すべき30歳1日目、何を始めようか。
あーあ。
せめて最後に言ってみたかったな。
『あなたはあたしにしかなつかないと思ってた。』ってね。
●《自己批評》
『 ――― 』
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『シアワセのコトバ』
著者:おりえ
「ただただぐるぐるぐるぐる」
あたしはそうありたくてここに来たのに、たとえばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?
「よーしよし、もっと回せ、うんよし、その調子」
あたしがブツブツつぶやきながら大きく腕を振り回している様子を、目の前の男は満足げに見ている。たとえば雨上がりの家の壁にカタツムリが無数に這っている様子を見ただけで中途半端に感激に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?
「ただただぐるぐるぐるぐる」
「よし、もっとだ、もっと声高に! 大らかに!」
いい加減腕が痺れてきたんですけど。あたしがこれだけ疲労に満ちた嫌そうな顔で手にしたスティックを振り回しているというのに、男は更にとせきたてる。たとえば雲ひとつない青空を見上げただけで中途半端に詩を口ずさめるような余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?
「ただただぐるぐるぐるぐる」
「おおっ、きたぞきたぞっ! 根性だっ! 根性でふんばれぐふぇ――っ!」
頑張ってる人間に、頑張れという言葉は失礼に値する。
いつだったかそんなことを誰かが言っていたような気がする。とにかくあたしは、無責任にわめく男の顔面に、手にしたスティックを投げつけてやったわけだ。どう?
あたしの魂の痛みは!
「何をするだぁーっ!」
「有名な漫画の誤植ネタはいいから、そろそろ説明くらいはしてくれてもいいんじゃない。あたしは辛抱強いほうだと思うわよ。いい歳した大の男が、いい歳した女がおもちゃの魔法スティック振り回す様を見て歓声をあげる。他人が見たら即通報ものだと思うんだけど」
「むむぅ。君もノリノリだと思ったんだが」
「……これ、いい武器になりそうじゃない?」
男の足元に転がった「まほースティック」を拾い上げたら、男は数十メートルは後退した。ちっ、金持ちの家はこれだから嫌なのよ。ムダに広いから。
「暴力は何も生み出さないぞー! 話し合おうじゃないかー!」
あたしから遠く離れた場所で、両手で口を囲って男が何事か叫んでいる。あたしは重いため息をついて、手にしたプラスチックのおもちゃを茫然と見下ろした。
こんなはずじゃなかったのに。こんなんじゃここに来た意味がないのだ。
元を正せば、悪いのはあたしだ。
胡散臭い場所にのこのこやってきて、想像通りろくな目に遭わない。騙すほうだって悪いが、騙されるほうも悪いと言われる世の中だ。あたしも自分の行いを恥ずべきなのだろう。
職を失い、手当たり次第に求人雑誌に目をやっていたあたしの目に飛び込んできたオイシイ話。
『時給1万円。超簡単な仕事です』
……なんでこんな文句にころっと騙されたんだろう。お金が欲しかった。仕方なかった。今は反省している。…こんなこと今更思っても遅い。
仕事は確かに超簡単だった。言われた場所へ行ってみればでかい屋敷があり、中へ通された途端男が出迎えてきて、おもちゃを手渡す。「呪文を唱えながら振り回して欲しい」
…うん、まあ、ある意味心がちょっと寂しい人なのよね。この人の心のケアをするのがあたしの仕事なんだろう。時給一万円。オイシイ仕事。はっ(嘲笑)、世の中うまい話なんかあるわけがない。このおもちゃから不思議な光が飛び出してくればお金がもらえる。そういうことなんでしょう。ただただ無心に呪文を唱えて適当に腕を振り回していたんだけれど。ああ、もうついていけない。帰ろうかな。
「いいかい。信じるんだ。信じればなんでもできるんだ!」
男はまだあたしを説得しようと声を枯らしている。信じればなんでもできる? あんたそれはないんじゃないの。今の世の中にどれだけ信用できるものがあるっていうの? あたしの死んだ母さんは、出て行った父さんはいつか必ず帰ってくると信じぬきながら逝ってしまったし、ついこの間別れた男が浮気をしていたことなんて知らずに心底彼を信じていた私はあっさり捨てられた。君には将来があるとうそぶいて散々ちやほやしてくれた会社は不景気を理由に私をリストラした。信じればなんでもできる? ええ、何でもやる気で頑張ったわよ。だけど結果は実らなかった。世の中ってそんなもんでしょう? 信じるものは救われる? 頭のおめでたい連中の考えそうなことだわ。現実から目をそらして心だけ満たしたってお腹は空くのよ。
「だから、30分も振り回したけど何も起こらなかったでしょうが! 大体何を信じろって言うのよ!」
痺れた腕を押さえながら怒鳴りつけてやると、男は前髪をばさっと手で後ろに払うような仕草をした。…格好つけてるつもりみたいだけど、笑いを外した芸人みたいで痛々しいわ。
「それは君だ! 君は君自身を一番信じてない! だから何も起こらないんだ! ああ、どうしてやめてしまったんだい! 君があのまま無心でスティックを振り回していれば、振り回していれば!」
「うるさい! 無心でいいなら信じるも何もないんでしょうが! 自分でやりなさいよ!」
「君はアホか!? そのスティックはどう見たって女性用じゃないか! 何が悲しくて僕がそんなものをうへへと振り回さなくちゃならないんだ!? 見苦しいだろうが!」
「女性用じゃなくて、これは女の子用でしょ!? あたしみたいな歳の女が振り回すこと自体がもう見苦しいんだっつーの!」
「……君は…!」
男はよろよろとわざとらしく足をもつれさせながらこちらへ近づいてきて、へなへなと崩れた。呆れてその様子を見ていると、男は力なく首を振る。
「君は僕に、幼女を誘拐しろと? そんな犯罪者になれと? 変態になれって言ってるのかい?」
「この愉快な二次元妄想野郎!」
「仮にも雇い主に向かってなんたる暴言だ! 撤回したまえ!」
「撤回したところで時間は戻らないわい!」
「…なるほど!」
男はがばっと顔をあげ、すくっと立ち上がった。あーあーもういいわよいいわよ、首にしてちょうだい。やっぱり地道に職探すわ。そこでそこそこいい男見つけて結婚してやる。
「今まであの広告に騙されてやってきた人間は総勢69人。皆僕の依頼を聞くや否や裸足で逃げ出したもんだが、君は最高記録だったよ。おめでとう、30分」
「…どうも」
う、嬉しくない…もしかして、実際にスティック握り締めた最初の人間があたしってこと!? 60人以上も人が来て、振り回したのはあたしだけ!? ああ、神様…って、いないもんにすがったって仕方ないわ。
あたしはスティックを返そうとして、ふと気づいた。
「あれ、これって子供の頃にはやったアニメのやつじゃない?」
「ああ、そうだよ、知ってるんだ」
「うん、変わった形してるからね。あたし世代の女の子はほとんど知ってるんじゃないかな」
もう帰れるんだラッキーと思ったからか、あたしは気楽になり、まじまじとスティックを見つめた。そうそう、ピンクと白のストライプの柄に、先端は水晶がついてて、水晶の下に並んでる三つのボタンを押すと、軽快なメロディが鳴るんだよねーって、あ!
「うわ懐かしい! これ小さい頃持ってた! ここ押すとさぁ」
赤、黄、緑の中の黄色いボタンを親指でぐっと押すと、たちまちちょっと雑音の入った懐かしいメロディが鳴り出した。あはは、動いてるじゃんこれ! 水晶も七色に光ってるし!
「呪文だって違ってるじゃん。何が『ただただぐるぐる』よ。こんな呪文で魔法が使えるわけないでしょ。えっと確か…」
ぴろぴろと雑音交じりのメロディに合わせて、あたしは一瞬だけ小さな女の子に戻った。
「――――!」
両親が仲が良かった頃、人気アニメ、魔法少女キャラクターのスティックを誕生日にもらった。あたしはすごく嬉しくて、毎日魔法少女になりきってスティックを高々と掲げて、覚えにくい呪文を頑張って覚えて唱えてたんだ。赤いボタンはみんなに幸せを与えてくれるちから。緑のボタンは雨の日を晴れにしてくれるちから。黄色いボタンは…
「黄色いボタンは、何のちからだったっけ」
せっかく呪文を唱えたのに、黄色いボタンも押したのに、あたしは黄色いボタンのちからだけ忘れていた。
「黄色いボタンは」
気づくと男がひどく優しい顔であたしを見下ろし、そっと言った。
「君に信じる気持ちをあたえるちから」
まあさ、お金持ちってだけで人を判断しちゃいけないんだなと思ったわけよ。
話を聞いてみたら、この男もお金はあってもあんまり幸せじゃない人生送ってたみたいでね。だからって気が合う人間を探すために、子供の頃大好きだった(男の子なんだからロボットアニメとか主人公が敵を撲殺するような過激なアニメにでも興味を示してよさそうなもんだけど)魔法少女を知っている人とトモダチになりたかったからこんな下らないことしたとか言ってんの。…もっとさぁ、やり方はいくらでもあったと思うんだけどね。お金持ちの考えることはわからないわ。
んでまあ、無事に採用されて、時給一万円でこの人とトモダチになることになったんだけど。
…正直、お金貰って友達になるってどうなの? って思ったわけ。それってトモダチじゃないじゃない? 雇われ友人なんてホントの友人じゃないし、お金なんてもらえない。
だからきっぱりそう言って、お金も受け取らず、他で職を見つけると言ってやったの。そしたらこの人ったら、
「だったら結婚して、一緒になってくれ」
だって。意味わかんないし。理由があまりにも失礼すぎて殴ってやったけど、どうも彼のご両親(立派な方なのよ、信じられない)が言うには、あれは彼のお嫁さんを探す試験にも近かったとかなんとか言うからさぁ大変。聞いてないし! 彼にも聞いたらにこにこしてうなずくもんだから、呆気に取られてしまったわ。それならそうと言ってくれれば、あたしだって「あー、こんな男でもどっかの令嬢と結婚するんだなあ」なんて思わずに済んだのよ。回りくどいにも程があるでしょ!?
で、へんてこなあたしたちは、魔法少女のスティックのおかげで、めでたく結婚したってわけ。
彼は女の子が欲しいって言ってた。ふたりの思い出の品を譲りたいって。それはいい考えだと思って、ふたりで生まれてくるのは女の子だと信じていたら、信じるちからがあたしたちに女の子を与えてくれた。あ、これが魔法なのかなって、本当にそう思った。
「女の子は父親似になった方が幸せになれるんだって」
彼はそう言って、赤ん坊をあやして笑う。
「あなたみたいな究極のオタクにならないことを祈るわ」
あたしは肩をすくめた。
「何にも一生懸命になれることを見つけられるのは、素晴らしいことだよ」
「まあ、正論だけどね」
娘にあたしたちの出会いのきっかけを訪ねられたら、あたしは口ごもるに違いない。でも世の中は不思議な力に満ちている。こんな出会いもあるんだよって、教えてあげるんだ。
「おまえが大きくなったら、このスティックをあげようね。それまで壊さないよう大切にしまっておかなくちゃ」
目を細めて娘を見つめるダンナを見て、あたしは肩をすくめた。
「全く、あたしと離れるのが寂しいから結婚したんじゃなかったの?」
「そうだよ。君だってそうだろ?」
「まあね」
あたしは嬉しかったんだ。
あんたはあたしの父のようにはならない。それを心から信じられるから。
「もう寂しくないよ。君とこの子がいてくれるんだから」
ダンナ様の言葉を聞き、あたしは冗談交じりで言ってやった。
「あんたはあたしにしかなつかないと思ってた」
●《自己批評》
『全てが無理やりでした…』
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『メイドの悩み』
著者:知
『「ただただぐるぐるぐるぐる」私はそうありたくてここに来たのに、たとえばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?』 『そんなはずじゃなかったのに。そんなんじゃここに来た意味がない。』
もう1人の私が夢の中でそう問い詰める。最近よく見るもう1人の私が問い詰めるという夢。
『そんな事はわかっている』
思わず、そう怒鳴り散らしたくなる。実際に夢の中で私はもう1人の私にそう言っている。でも、もう1人の私はその言葉が聞こえていないのか、何度も何度も繰り返し、私を問い詰めてくる。
『また、この夢』
私は目を覚ましてから思わずため息を吐いた。
ナイトテーブルに置いてある目覚まし時計を見ると起きる時間まで後30分。眠たくもないし、少し早いけど起きよう。
腰まである長い黒髪を櫛で梳かし軽く化粧をする。そして服を着替えて姿見でおかしいところがないかを確認する。
『いけない、ホワイトブリムが曲がっている。』
ホワイトブリムを真っ直ぐに直して、もう一度おかしいところがないかを確認すると、私は微笑みを浮かべ鏡に向かって言葉を発する。
それは私がこの仕事に就いてからの日課。服を着替えこの言葉を発することで私は私ではなくなり
「おはようございます、旦那様、奥様」
橘家のメイドになる。
「おはようございます、お坊ちゃま、お嬢様」
「「「「おはようございます」」」」
朝食の準備がもう少しでできるというところで、橘家の子供達4人が起きてきた。男の子が2人、女の子が2人。
4人とも小学校低学年〜幼稚園なのにしっかりとしているのはしっかりと躾がなされているからだろう。旦那様も奥様もそういうのを凄く気にするのだ。問題は子供のためというわけではなく、自分達の体裁のためということだが。
旦那様と奥様は昨日は仕事で帰ってきていないので、朝食は子供達だけ。そのせいか子供達も緊張せずに、落ち着いて朝食を食べている。本当のところを言うと、子供達が旦那様と奥様がいると落ち着いて食べられないのは旦那様と奥様が躾に五月蝿いという理由だけではないんだけどね。
橘家で雇われているメイドは私1人だから『雑役女中(maid of all works)』に当たり、子供達の躾も私がやっている。でも、旦那様も奥様もいないときは私は五月蝿くは言わないので、子供達も落ち着いて食べられるようだ。と言っても、行儀が悪い子はいないんだけどね。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
子供達全員が朝食を食べ終わり、小学校へ幼稚園へ行く準備をしに自分の部屋に戻っていった。
私はその間に片づけをし、車を出しておく。小学校、幼稚園への送り迎えも私の仕事だからね。
子供達を小学校、幼稚園に送り、家に帰ってきてから掃除を始める。メイドを雇うだけあって広い家ではあるが、掃除の大半はロボットが自動でやってくれるので、それほど時間はかからない。私が掃除をしなければならないのはロボットができない部分だけだからね。ロボットが掃除をしている間に、洗濯を始める。掃除はロボットがある程度はやってくれるとはいえ、この家のメイドは私1人だ。時間は無駄にしたくない。
『そんなはずじゃなかったのに。そんなんじゃここに来た意味がない。』
洗濯、掃除を終え、休憩しているとまたそんな声が聞こえ始めた。
「コーディー」
私はそんな声を振り払うかのように庭に出て、私がこの家に雇われるときに連れてきた犬の名前を呼ぶ。放し飼いにされているが、私が名前を呼ぶとすぐに私の元へやってくる。
コーディーは表向きはこの家の番犬ということで連れてきた。確かに、しっかりと訓練されたコーディーは優秀な番犬であろう。しかし、私がコーディーを連れてきたのはその為ではない。
私がコーディーの首輪を外すと、コーディーの雰囲気が変わる。もし、首輪を外した状態で私がコーディーの側を離れるとコーディーは側にいる人を殺す。私がその様に訓練したのだ。コーディーの雰囲気が変わるのを確認すると私はコーディーに首輪をかける。
私は滅多にコーディーの首輪を外すことはしない。何かの間違いがあって、コーディーが人を殺してしまうといけないから。私がコーディーをこのように訓練したのは、この橘一家を殺すためだけだから、他の人にその牙を向けさせてはダメなんだ。
私が始めてこの家に来た時、今までにこれ程喜んだことがないというほど喜んだ。
私の念願が叶う可能性が出来たからだ。私は橘家に復讐することだけを考えて生きてきたといっても過言ではない。その復讐の相手である橘家に雇われることになった、これ程嬉しいことはない。
私の母は若くして亡くなった。中学生のときに私を産んで、母の手一つで私を育てたから心労が溜まっていたのだろう。亡くなったときは、30歳台とは思えない程、体はボロボロだった。父親は……私には法律上の父親はいない。認知されなかったからだ。でも、誰かはわかっている。旦那様だ。もし、旦那様が私を認知していればあんなに苦労することなく母は長く生きられただろう。間接的ではあるが母を殺した旦那様が憎かった。体がボロボロになりながらも働いている母の姿を見て、旦那様に殺意を抱くのは私にとって自然なことだった。
復讐の相手である橘家のメイドになって、ある違和感にすぐに気づいた。今の旦那様と奥様は互いに再婚である。旦那様は男の子2人を、奥様は女の子2人を連れて再婚した。どうやら、旦那様と奥様は相手の連れ子を殺したいと思っているようだ。
旦那様の方の理由はすぐにわかった。母を孕ませてから何年か経つ間にペドフェリアだけではなくネクロフェリアにもなっていたようだ。しかも、性愛対象に見る年齢が低くなっている。それは、旦那様の奥様の連れ子2人を見る視線を見れば一発でわかるだろう。奥様の方はおそらく遺産関係だと思う。自分の子供には遺産を与えたいが、連れ子には一銭もやりたくないといったところだろうか。互いに相手の連れ子を殺したいと思っていて、自分がいないと自分の子供は殺されてしまうということに気づいているのだろう、私を雇ったのは自分の子供を殺されたくないといった理由もあるように思う。その雇ったメイドは一家全員を殺したいと考えていることは何という皮肉であろうか。
しかし、私はまだ実行できないでいる。コーディーの首輪を外し、私が少し出かけるだけで私の復讐は完了する。でも、それができない。子供達と触れ合うにつれ、この子達には何の罪もないのではないか、私と全く同じではないが私と似たような境遇にあるのではないかと思ってきた。どうやら、子供達は幼いなりに自分の父が、母が自分を殺そうとしているのに気がついているようである。
最近、実行できない私にもう1人の私が早く殺せと問い詰める。お前は何のためにここに来たのかと問い詰める。どうするべきか悩んでいて、頭を切り替えるために庭を散布している時に信じられない光景があった。コーディーが子供達に懐いていたのだ。今まで首輪をつけていてもコーディーは私以外の人に懐かなかった。
首輪を外したのはそのような光景を見たからだ。ここに来て数年経ってコーディーが変わってしまったのか確認すために。でも、コーディーは何も変わっていないようだった。今でも首輪を外して私がコーディーの側を離れれば、コーディーは側に来た人間を殺すだろう。
でも、確かに今まで私以外に懐かなかったコーディーが子供達に懐いていたのは事実だ。
私は嬉しそうにしっぽを振って私の側にいるコーディーの頭をなでながら呟いた。
「今まで私以外の人に懐かなかったから、あなたは私にしか懐かないと思ってたよ。」
●《自己批評》
『始めにに断っておくと、俺はメイド属性ではない。
読んだらわかると思うけど、前回のナスビクイズのあの家族が元ネタw
狙ってましたw ナスビクイズには答えずMystery Circleでやるということは、ナスビクイズの問題を見た時点で考えてました。
いや、今回のお題を見てガッツポーズしそうになったね。考えてたネタができる……と。
因みに出てくるメイドのエプロンドレスはヴィクトリアンタイプ。スカートはロング……えっ?どうでもいいって?
また、この話の世界にはメイドの派遣会社が存在するという設定もあります。
後、ご主人様と呼ばずに旦那様と呼ぶのは、本来メイドは奥様が雇うのでご主人様は奥様だから、旦那様はご主人様ではないからです。
この話のメイドは旦那様と奥様の両方に雇われているので、旦那様も奥様もご主人様になります。
もう少し話を練りたかったと思っているのは毎度のことなので省略〜』
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『Acid rain (酸性雨)』
著者:李 九龍
「ただただぐるぐるぐるぐる・・・・・あたしはそうありたくてここに来たのに、たとえばこの砂浜の一粒一粒の光を見ただけで、中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?」
私は、まどろみの中で、その言葉を聞いた。
違和感あるなぁ・・・その時の私は、そんな程度の事しか思い浮かばなかった。
今にして思えば、それはきっと彼女が初めてその感情を表面化させた、「解放」だったのかも知れない。
「海にでも行く?」
私は、我ながらだるそうな声だと思いながらも、ベッドの中からそう声を掛けた。
珍しくも夏樹は先にベッドから抜け出し、一人全裸のまま椅子へと腰掛け、更に珍しい事に、テレビを観ているのだった。
夏樹は少しテンポを遅らせながらも、凄く緩慢な動作でこちらに振り向く。 その表情は、疑問系だった。
「海にでも行きたいの? ずっと海の映像を見ているからさ」
依然、夏樹の顔は無表情に近い疑問系。 まぁ、いつもの事だ。 彼女から選択の回答をもらうには、かなり根気が要る。
夏樹はそろそろと椅子を立つ。 まだ未発達とは言え、手足の伸び切る直前のような若いしなやかな裸身を隠そうともしないで、彼女はこちらへと歩み寄る。
私は腕を取り、引き寄せる。 彼女の顔が近付く。
彼女からキスを求め、彼女の肢体はなだれるように、私の身体の上へと移動する。
彼女の重みが伝わる。 自然に手が絡み、指と指が絡み、そして足も交差して行く。 だがその間も、決して私達のキスは中断される事は無かった。
上に乗った彼女の、子供染みた軽いキスが、ずっと私を刺激する。
そしてついに、私の欲望の爆発が起こる。 私は暴力的なまでに、彼女の手を振り解き、そしてその腕で、彼女の肢体を抱き締める。
抱き締めたまま転がり、上下を入れ替え、私は彼女に覆い被さる。
右腕で彼女の頭を押さえ、欲望のままに、深いキスをする。
呼吸が乱れ、激しくなる。 肌が瞬時に熱くなり、利いている筈のエアコンが疑わしくなる。
そして私は、強く彼女の舌先を吸いながらも、いつもの癖で、少しだけ薄目を開けて見る。
やはりそうだった。 彼女はいつものように、覚めた細い目で、天井を見つめていた。
彼女は決して、目を瞑らない。 キスの最中でも、セックスの最中でも、決して彼女は、「空」しか見ないその瞳を、閉じる事はしなかった。
私はその虚ろな目から逃げるように、顔をかわし、首筋に舌を這わせ、愛撫を始める。
そう言えば、彼女はいつも、「何も見てはいない」人間だな・・・と思った。 そう、今、相手をしている私でさえも。
室内には、コマーシャルに変わった、テレビの雑音が流れ、そして耳元には、夏樹が上げる激しい呼吸音と、一種うめき声にも似た、歓喜の吐息が聞こえる。
「これも、セックスって言うの?」
キッチンでコーヒーを淹れる私の耳に、かろうじてその質問が聞こえた。
私は、片方はノンシュガー、もう片方はノンミルクのインスタントコーヒーを淹れ、途中、耳障りなテレビを肘で消し、それをベッド脇のサイドテーブルへと運んだ。
テーブルの上に、黒い方のコーヒーを置く。 そして私はうつぶせのままに倒れ込む夏樹の横へと腰を下ろし、そして白い方のコーヒーへと口を付ける。 どうやら、私達の好みは、嗜好品まで違っているらしい。
折角の休日の朝だったと言うのに、今はもう、既に午後を回っている。
私も、その疲労は隠せない。 きっとこのコーヒーを飲み終わった後には、沈没仕掛かっている彼女の横で惰眠を貪り、その休日の一日目は終わってしまうだろう。
――― 女同士のセックスとは、ここまで果てしないのか・・・と、今更ながらに思う。
これならば、イってお終いな、男とのセックスの方がまだ楽かな・・・と、出来もしない考えが頭に浮かぶ。
「ねぇ・・・・・これも・・・セックスって言うのかなぁ・・・・・」 もう、寝言に近い声で、夏樹は言う。
瞬間。 まるで今の私の思考の一端を読まれた気分になった。
「だって・・・これって非生産的でしょ? ・・・種の保存にはならないでしょ? ・・・やっぱり私達の行為って・・・神への謀反なのかな?」
また始まった・・・と思った。 夏樹の癖だ。 彼女は何にでもその理屈を求めたがる傾向がある。 いや、彼女は常に、疑問の中で生きているのだ。
「そんなの、どうでもいいじゃない」 私は言った。 だが、その声はもう、彼女には届いていなかったようだ。
「私達は・・・・・劣勢人種なんだよね・・・? どう頑張っても、子孫の為のセックスって出来ないんだよね・・・?
じゃあ・・・私達の血は、途絶えていい筈じゃない? でも、どうして・・・私達のような人種は増え続けるの? ・・・遺伝子の情報が・・・おかしいんじゃ・・・・・」
最後の方は、聞こえなかった。
私は、夏樹のブラウンに染まった長い髪を撫でながら、もう一度、同じ台詞を繰り返す。
「そんなの、どうでもいい事じゃない・・・」
私は、冷め行く彼女のコーヒーカップを眺めながら、明日、一緒に水着でも見に行こうかと思った。
そう言えば・・・夏樹とは、ただの一度も一緒に外出をした事が無い。 それが、一緒に海などと考えただけで、大きな違和感を感じる。
それもいいかな。 私は思った。 私は今まで、彼女の事は何も知ろうとはしてなかったからだ。
「海だ」
夏樹は全くと言っていい程、抑揚も感動も無い声で言う。
バスは大通りを大きく右へと曲がる。 先程までは、街の中に時々見えるだけであった風景の一部が、眼前一杯へと広がる。
「海は好きなの?」
「わからない」
相変わらず、私達の会話には前進が無い。 一緒にいても、大抵は二、三度のキャッチボールで終わってしまう。 私から彼女への投げる言葉はいつも、「質問」で、彼女が私へと投げかけているのかどうかも判らないような言葉は、いつも、「疑問」だった。
「じゃあ、何であんなに真剣に、海の映像を観てたのよ?」
夏樹はこちらを振り向き、またいつもの疑問系の顔へとなる。 彼女は私の質問の意味が判らないのだろうか。 それとも、本気で自分の感情やら意見を、疑問として考えているのだろうか。
彼女は、膝が破けまくったボロのようなジーンズパンツに、意図が判らない鎖を沢山ぶら下げていると言うような出で立ち。 そして身体のラインが見えてしまうような、短いTシャツ。 一方の私と言えば、色気の無い黒のパンツに、グレーのノースリーブ。 他人が見たら、どんな感じの二人組みに見えるのだろうか。
人込みを避け、あまり人気の無い岩場の海岸の近くの停留所で、私達はバスを降りた。 近くに、今日から三日間滞在する民宿があるのだが、海水浴場には、少し歩かなければならないらしい。
岩と岩の間から、磯の香りと波の音が聴こえる。 私にとっても、久し振りの海だ。 仕事漬けで、余暇を楽しむ事もしなくなった私には、懐かしい興奮と刺激があった。
夏樹は、ひたすら海を見ている。 この前の朝、テレビを観ていた時の場面が、フラッシュバックする。
私は、何の気もなく、夏樹の顔を覗き込む。 ・・・瞬間、驚く。 夏樹は、しっかりと焦点を海に当て、それを、「目で見ていた」のだ。
「私・・・・・海は初めてだから」 それが、彼女から返って来た、長い時間を掛けた質問の回答だった。
一緒に暮らしていても、やはりお互いの事は知らないものだ。 夏樹は、呆れるぐらいに、世間一般の常識と言うものを知らなかった。
宿では、スニーカーを脱がずに上がろうとする場面があったり、夕飯の膳に乗ったお吸い物の蓋に限っては、その悪戦苦闘振りに、私は思わず噴出したりもした。
夜。 明日行く海水浴場の事を、私は返答も期待せずに、勝手に説明した。
私達は、合計四本のビールを開けた。 全開にした窓から入る夜風の涼しさが、火照った身体に心地良い。
夏樹は、窓の傍に腰掛け、依然、暗い海を見ていた。 彼女がここまで何かに興味を持つのは、初めての事のように思える。
「海の面積って知ってる?」 私は夏樹に、「質問」をする。
夏樹は、珍しく素早く振り向き、いつもよりも早い反応を見せる。
「正確な数字は忘れたけれど、今私達が立っている陸地に比べ、約二倍弱の面積があるんだってさ」
ふぅん・・・と、夏樹は返事をする。 今日は本当に珍しい反応ばかりを見せてくれる。 半年も一緒にいて、初めてだらけなのだから、普段のお互いの付き合いと言うものに対し、実に触れ合う部分の無い事が、良く判る。
「じゃあ、もしも私が、私一人分しか立てないような陸地にいたら、周りにはその倍以上の広さの海があるのね・・・。
それなのに、私は初めて海を見た。 他の人だって、いつも海を見て暮らしている訳じゃ無い。 何でこんなに大きなものが、普段は見えていないのだろう・・・」
夏樹は、訳の判らない理屈で、「疑問」を始めた。 これは常に変わらない。 彼女は常に、不思議な想像力の中で、疑問を投げ掛けているのだ。
そう言えば・・・と、思う。 彼女を拾った、同じ趣味の人間がたむろするクラブで、つい最近、私はそこで一番仲の良い友人の典絵に、夏樹の噂を聞いた。
「彼女は、《SUICIDE WISH》 自殺癖があるよ。 ただ、実行はしてないだけ。 気を付けな」
だが、周りの人間は、揃って私を笑う。
「心配無いよ。 アンタはいつも、オイシイ所だけ持って行って終わりなんだからさ」
「どうせすぐに、手に負えないって、いつものように手放すんだろう?」
馬鹿にしてろ・・・と、私は思った。 どうせ同じ趣味の人間なんだ。 楽な付き合いだけで充分じゃないか。
その晩は、開け放たれた窓から声が流れ出るのを恐れながらも、それが密かなスリルのように、お互い声を潜めて抱き合った。
外からは、単調なる一定のリズムを持ちながら、波の音が聴こえる。 波の音しか無い世界は、実に見事な静寂だとすら感じた。
翌日は、朝早くから陽が照り付けた。
最初は、波を恐がっていた夏樹も、次第にそれを楽しむようになっていた。
夏樹は、全くの子供だった。 驚くぐらいの子供だった。 一体彼女は、どんな幼年期を過ごして来た子なのか・・・と、思わず想像してしまうようなぐらいに、あらゆる感情が未発達のように見えた。
彼女が、声を上げて笑うのを、私は不思議な気持ちで見た。
夏樹は、ちゃんと笑えるのだ。 肌を合わせている間柄でも、隠さなければならないような感情もあるのだと思った。
午後。 私は完全に陽の当たらない場所で、睡眠を取った。
横にいる筈の夏樹が、私が眠りに落ちる寸前に、何かを言った事だけは覚えている。
違和感あるなぁ・・・その時の私は、そんな程度の事しか思い浮かばなかった。
今にして思えば、それはきっと彼女が初めてその感情を表面化させた、「解放」だったのかも知れない。
「そんなはずじゃなかったのに・・・。 そんなんじゃここに来た意味がないじゃない・・・・・」
その言葉を最後に、夏樹は私の前から消えた。
それからしばらくは、地獄のような日々が続いた。
一部の安っぽいマスコミからは、家出少女を監禁していた異常性癖の女だと騒がれ、事実がばれた会社からは当然のように解雇処分。 思いもかけずに、降って沸いたような災難を味わった。
だがそれも、ほんの数ヶ月の事だった。 私は別の職を手に入れながら、また、ちょっと昔の生活を取り戻しつつあった。
私は久し振りに、同じ趣味の人間が寄り集う、「Club Acid rain」へと、足を運んだ。 結局、私が最後に行き着くのは、ここしか無いのだろうか・・・と、一人皮肉ったりもした。
地下の重いドアを開ける。 轟くような音が刺さり込み、そして煙が視界をぼやけさせる。
ここでは嫌われ者である私は、相当の覚悟で足を踏み入れたのだが、顔馴染みの面々は、意外にも私を優しく迎えてくれた。
特に、友人である典絵は、私を抱き締めながら、泣いてまでくれた。
何処で仕入れたのか、夏樹のその後の様子を、誰かが教えてくれていた。 蘇生が間に合い、無事に退院した彼女は、どうやら親元へと帰ったらしい。
最低の親だったと、誰かが言う。
叱る事しかしない親が、学校へも行かせずに、軟禁生活のように彼女を育てたとも聞いた。 何でも今の彼女は、精神系の施設へと入れられているとも聞いた。
「それでも親なんだよ」 典絵は言う。
「結局、誰が引き取るかなんて言ったら、親しか無いんだからさ。 育てるのも親しかいないんだし」
私は、ギムレットを口に含みつつ、彼女の言葉に頷く。
「ここにいる連中は、全員がどっか欠陥品なんだ。 どこかの何かのパーツを埋めたくて、ここに来るんだ。
見なよ。 向うで踊っている若い連中を。 ドアを開けて入って来たら、まずは全員で品定め。 それで、例えお目当ての子が上手く手に入ったとしても、それで何かの補完になる訳無いなんて、気付いてもいない」
典絵は、笑いながら続ける。 「アンタも、ずっと向こう側の踊っている連中と一緒だったよ。 痛い部分には目を背ける・・・ね」
深夜の帰り道。 典絵と、夏樹の言葉が、耳の奥で響いた。
私達は、全員がどこかパーツの欠けたニンゲン。 そして、物理的に血が途絶える筈の劣勢遺伝。
それなのに、例え性別の違いはあろうとも、そんな性を持つニンゲンは、年々増え続けるその矛盾。
そうか・・・。 私は、与えられ続けて育って来たんだ。 だからこそ、夏樹とはあそこまで正反対だったんだ。
私は、彼女に足りないパーツを求めていたのかも知れない。
だから私は、「質問」で、彼女は常に、「疑問」だったのかも知れない。
私はあなたを必要としていた。
でも、夏樹、あなたは私を必要とはしていたの? 一度でも、海を見るような目で、私を見てくれた事はあったの!?
私は、もう聞く事が出来ないその悔しさに泣けた。
夏樹に、私を見てくれる事が無かった事への悲しさでは無い。 もう、その質問を投げる事が出来ない悔しさに、泣けているのだ。
どうせ深夜だ。 誰に見られても構うものか。
私は、涙を拭う事すらせずに、ぼけた視界のまま、家路を辿った。
・・・・・遠くから、耳障りな金属音が聞こえる。
・・・・・それはまるで、鎖と鎖がぶつかり合う音。
誰かが私の後ろを走って来る。
暗くて良くは判らないが、若い女の子のようだった。
顔は見えなくとも、私にはそれが誰なのかはすぐに判った。
あんなに緩慢で、動きに乏しい人間が走って来る訳が無いのを知っていながらも、それは間違い無く、彼女だと判った。
どうやら彼女も、私を見付けたようだった。
私はちょっと、恥ずかしくなった。 夏樹が、こんな深夜に、大声で私の名前を呼び、泣きながら走って来るとは思いもしなかったからだ。
ほんの数ヶ月で、そんなに変わらなくてもいいじゃない。
私は、どんどん近付いてくる彼女の姿を見ながら、その視界がどんどん見え難くなって行くのが、何故か不思議に思えた。
「あなたは・・・私にはなつかないと思ってた・・・・・」
●《自己批評》
『やた! 官能系一番乗り! 本当は、もっとエグいのやりたかったけどな。
つか、話の展開に無理有り。 やっぱショートは厳しい・・・。』
> > > > > > > > > > > > > > >
『こんな女は嫌われるスペシャル』
著者:松永夏馬
「『ただただぐるぐるぐるぐる』あたしはそうありたくてここに来たのに、たとえばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?」
「……いや、『ぐるぐる』でなくて『グーグル』ですけど」
法河九郎は困ったような笑顔を張り付かせつつ、年嵩の生徒を見下ろして心の中でため息をついた。インターネットがもはや日常と切り離せなくなったといって過言ではない世の中ではあるが、パソコンのパの字も知らない人間がまだまだ存在するものなのだ。
そういう人間は大抵完璧主義者である場合が多い。頭が固く独占欲・支配欲が強い為、わからないものをわからない状態で使うことに強い拒否反応を示すのだ。
パソコンなぞ中身がどうなっていようと使いかたがある程度わかればなんら問題はない、要は慣れだ。しかし、こういう種類の人種はそうはいかない。全て理解しようとして、理解できなければ拒絶する。
この妹尾リエという女もそうだ、と九郎は思った。九郎が大学の頃、二人は付き合っていたのである。5つ程年上ですでに社会に出ていたリエは、当時の九郎から見れば経済力もあるうえに、美しく聡明な大人の女性だった。
「そんなはずじゃなかったのに。そんなんじゃここに来た意味がないわ」
社会人となった九郎が講師を務めるこのパソコン教室に彼女が現れた時のセリフだ。九郎はげんなりとした顔を隠すことすらしなかった。あの時からまったくもって変わっていない。
「そう、そうなの。再び九郎とやりなおす為に来たわけじゃないの。ただ、ただパソコンをね」
ああ、こっちもそんな気はさらさらないよ、と言いたげに九郎は肩をすくめたのを覚えている。彼女は常に自分を中心とした世界に住んでいるのだ。付き合っていた時もそうだった。すべてが自分の思い通りにならないと気が済まないくせに、そのために自分が何かをするというのが嫌なのだ。変にプライドが高く、そういった『段取り』を誰かに知られることを極端に嫌う。まるで運命に導かれたように、という展開が理想なのだ。偶然を装い出会ったのではなく、あくまでも偶然であるのだと。
そんな極度に支配的でそれでいて乙女チックな彼女。社会に出た九郎が別れを切り出すことに時間はかからなかった。
プライドの高い彼女だったから、あからさまに電話をかけてくるような真似はしなかった。しかしそうして一年過ぎた結果コレだ。仕事場に偶然を装い現れる。九郎からしてみたら「客」扱いをしなければならないとは困り者である。当然狙っているのであろうが、彼女の中では『偶然』なのだ。
何度目かの授業が終わった帰り道、待ち伏せ……ではなく、偶然に九郎はリエと出会った。教室に忘れ物をしたと言うのだ、それも今取りに戻らなければ困ると。仕方なく職場へと戻り無人の教室の鍵を開けた。
「……ああ、よかった。こんな所に落ちてたいたわ、私のハンカチ」
九郎はげんなりとした。ハンカチなぞわざわざ……、そう思いながら諦めて首を振る。あと数回の講義で彼女ともおさらばできるはず。
「もういいですか? 妹尾さん」
「リエでいいわよ? 二人っきりなんだし」
楽しそうに顔を向けた彼女はやはり美しかった。一瞬たりとも見とれた自分に、九郎は後悔することになる。
リエは九郎に微笑んでこう言った。
「九郎……あんたはあたしにしかなつかないと思ってた」
●《自己批評》
『あー。提出しただけでも褒めてください。今回は難しかった・・・なーんも浮かばなかったよ。
よし、次回はがんばるぞー(などと早々に目を背ける)
毎度毎度、名前弄って遊んでおります。すんません。ひらにひらに。
松永夏馬でした。』
> > > > > > > > > > > > > > >
『Inspirationdetective noa』
著者:フトン
「『ただただ、ぐるぐるぐるぐる』あたしはそうありたくてここに来たのに、例えばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を何でまだ持ってんの?」
その言葉は、深い闇の中静かに重く響いた。
「いやだ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
私の叫び声は、長い廊下に響き渡った。
まるで猫のように襟口を捕まれ引きずられている私・・・
「乃亜。諦めろ!今日こそは手伝ってもらうぞ。」
私を引きずっているこの男!加住 憐は、それは美しい顔で私を見下ろした。
見た目はモデル並みに綺麗なこの男は、私の天敵!!
背も低く、幼児体系のこの私を、玩具かなんかと思っている。
大体、憐が一言声を掛ければ大抵の女の子が、二つ返事で手伝ってくれるのに何だかんだと私を使ってくる。その所為で受けたくもない嫌がらせを受ける毎日を送っていた私は、ここ何日か憐から逃げてたのに、今日は神様に見放されたのか・・・・しっかり捕まってしまった。
「離せ〜〜〜!!悪魔〜〜〜!!」
私の雄叫びなど物ともせずに憐は私をズルズル引きずったまま歩き続けた。
「俺から逃げようって考えが、無理なんだよ。諦めて手伝え!!」
・・・・・・・・
いやな奴!!嫌な奴!!!ほんとに悪魔じゃないの!
何でこんな奴がモテンノヨ!!
どんなに暴れたところで、149cmのチビ輔が175cm以上もあるサッカー部期待のホープに勝てるわけもなく・・・・
私は心の中で憐に悪態をつきながら、(ええ!めいっぱい!ついたわよ)引きずられていった。
★★★★★
連れてこられたのは、私とはまったく無縁の生徒会室だった。
中に入ると、生徒会長と副生徒会長が待ていた。
この学校でこの二人を知らない人間が居ないほど、彼らは有名人で思わず私はしり込みをした。
憐とはまた別の精悍な感じの美男子の会長に、この世にこんな美人が居ていいのかと思うほど(高校生にはみえないほど・・・)ユリの花の様な女性の副会長!!
普通に生活していたら絶対関わりがない二人だ!
その二人が私達が来るのを待っていたんだから驚いてしまう。
私は憐のわき腹をつついて小声で話しかけた。
「ちょっと、どういうことよ。」
憐はにやりと笑うと、会長に・・・
「連れてきたぜ。」
と軽い感じで合図した。
憐も侮れない!性格が悪いのを(私しか知らないけど・・)除けば、スーパー高校生だし・・・
この3人が知り合いだという事自体は、良く考えれば普通の事かもしれない・・・
なんかムカつくけど・・
「良く来てくれたね。花城 乃亜さん」
自分の名前を呼ばれて、思わず驚いてしまう。何で私の事なんて知っているのか・・
「加住君に話は聞いているよ。君に頼みたい事があるんだが・・」
私に頼み?
一体憐は会長に何を吹き込んだのか・・・・
「君には普通の人間には見えないものが見えるらしいね。」
そう言われて、私は目を見開いた。
憐の奴!!なんて事を、会長に話しているんだか!!横目で憐を睨み付ける。憐はそ知らぬ顔でニヤニヤ笑っている。
絶対こいつは悪魔だと確信した!
確かに私は、小さい時から不思議な体験をしてきた・・・でもそれは出来れば隠しておきたい事で・・・・
大体、憐の所為でそうじゃなくても災難な学園生活を送っているのに、これ以上自分を不利な立場に置きたくないという自今防衛だったのに・・・!!
こいつはそれを台無しにしやがった。
「最近学園内で、不思議な事件が起きているのは知っているよね。」
私は頷いた。確かに不思議な事が続いていた。
教室から、机がなくなっていたり・・・男子生徒が階段から落ちて、怪我をしたり・・・音楽室で人の悲鳴を聞いたとか・・
それらは全て、誰も居ない時に起きていた。
実際この何日かは、変な胸騒ぎがあったのも確かだし・・
「それを、君達に解決してもらいたいんだ。」
隣にいた憐の瞳が輝いていた。
「まかせろ!な!乃亜!」
どうやら私の意見は無視されるらしい・・・
誰か・・・こいつを止めて~~!!
★★★★★
「で!何処からしらべる?」
すっごく楽しそうに憐が聞いてきた。
この顔を見ていると・・・・ものすごく腹が立つ!!
「あんたね〜!何で私が憐の遊びに付き合わなきゃいけないのよ!」
「それは、お前が俺のペットだからだろ?今更何言ってんだか?」
・・・・・・!!!!!!!
いっぺんしめたい!!
「で!何処しらべんだ?」
何を言っても無駄らしい・・・つきあうしかない・・・のね・・
「音楽室」
私は小さな声でそう答えた。
憐はとにかく楽しそうに歩き出した。
音楽室はとにかく静かだった。
あの事件以来、授業中以外は人が寄り付かなくなっていた。
学園中の噂を真に受けるつもりはないけれど、確かに変な感じがする。
誰かが見ているような・・
「憐。やっぱりやめない?あまり関わらない方がいい気がするの・・」
私の言葉を聞いた憐は綺麗な瞳を真ん丸く見開いた。
「はあ?何言ってんだ?こんな楽しい・・・じゃない!人の役に立つことを頼まれて、お前は断るのか?」
やっぱり憐暇つぶしだったんだ!
もう!!帰りたい・・・
「逃がさないからな!」
憐の言葉に寒気が走った・・・
違う!!これは悪魔の言葉の所為ではない!!
もっと別の痛いほど感じる視線に、私の背筋は凍りついたのだ。
誰かが見ている・・・でも、さっき音楽室には誰も居ない事を確認していた。
私は憐の制服の袖を掴んで俯いた。
「ん?どうした・オレの魅力にやられたか?」
おとぼけ憐!!
突っ込みたいけど体が言う事を利かない・・・
憐もさすがに異常に気付いたのか、辺りを見渡した。
「何か居るのか?」
その答えに私は小さく頷いた。言葉を発するのもきつかった。
その視線は段々強く痛いほど感じるようになった。
その時だった、憐が喉の奥を鳴らした。いつも強い憐が小刻みに震えている。
私はゆっくりと顔を上げ、憐の視線の先を追う。
そこには確かに人間じゃない者が居た。見た目は人間だけど・・・実態はない感じのそれは、ゆっくりと私達の方に近付いてきた。
学園の制服を着て、髪の長い見た目女の子のそれは、憐の顔を見てゆっくりと手を伸ばす。
憐は凍りついたまま、その手を受け入れていた。受け入れたというより・・・何も出来なかったが正しい。
何だか・・・いい気味・・・
「何しにいらしたの?」
柔らかい口調でそれは言った。
品のあるしゃべり方とは裏腹にそれは、冷たくそっけなかった。
「貴方は、ここで何をしているの?皆を驚かせるために居るわけじゃないでしょ?」
勇気を振り絞って、それに話しかける。
それは今、私に気付いたとでも言いたげに私に視線を下ろす。
(何か・・・ムカつく・・)
「貴方こそ、何しにいらしたの?貴方も私を、消しに来たの?」
瞳が恐ろしく冷たく光っている。
憐が私の腕を掴んで、自分の後ろに隠したのと、それが私に手を伸ばしたのは殆ど同時だった。辛うじて私は、憐の後ろに隠され、それの手から逃れた。
「なぜ、この女を庇うのですか?私は、ただ此処に居たいだけなのに・・・この女は私をけそうと・・・あの方も・・」
「私は貴方を、消しに来たんじゃないわ。ただ、最近の事件について聞きに来ただけなの。」
憐の背中から顔を出しそれに諭しかける。
「消さないの?ほんとうに?」
私は強く頷いた。
「事件の事は・・・貴方が知ってるんじゃないの?」
それは私を、じっと見つめた。
私が知ってる?何を?事件の事?
「貴方に、付いてるじゃない・・・ね〜。」
それは憐にむかって問いかけ、「私は知らないわ」と言ってくるりと踵を返した。
一瞬のうちにさっと、消えてしまったそれを、見つめながら憐と私は首を傾げた。
私が知っているって・・・一体何のことだろう・・・
「お前が犯人?」
憐の言葉に・・・怒りの鉄拳!!
「なわけないでしょ!!でもこれじゃ・・・こんなはずじゃなかったのに。これじゃここに来た意味がないのよ。」
「やっぱり、お前何か知ってるのか?」
憐の言葉に首を振る。
「彼女が頼りだったの・・彼女ならこの一連の事件について何か知ってると思ったから・・」
私は頭を抱えた。謎は深まってしまった。一体何がこの学園に起こっているのか・・
★★★★★
あれから、捜査は一向に進展しなかった。(って、警察みたいだけど・・・)
「ねえ、憐。この事件って、本当に幽霊の仕業かな?」
机につっぷしたままそう言った私の頭を憐が叩いた。
「何言ってんだ?他にどうやって誰も居ないとこで事件が起きるんだよ?」
それを言われると・・・頭が痛い。でも、どうしても人間くさく感じてしまっていた。
「ねえ、唯一怪我した人がいたよね?」
「ああ、会長だろ?」
!!
怪我したのって会長だったんだ!!知らなかった・・・
「もしかしてお前・・・知らなかったのか?」
ものすっごく冷たい視線を送る憐に何か恐ろしいものを感じた・・・
虐められる・・・確実に・・・
「はあ〜〜。あんなに噂になったのにお前の脳みそ、腐ってないか?」
耳を引っ張られ、耳の中を覗かれる。そんなやり取りをクラスの女子達がしっかりと見ていて、こそこそと何か陰口を叩いている。また、嫌がらせが・・・これって私の所為なのか?いや、この悪魔の所為だ!!変な事件に巻き込まれるし・・・何時かしかえししてやる〜〜!!
「会長が、委員会終わって教室に戻ろうとしていたら、誰も居ないはずの三階の階段で後ろから押されて落ちたらしいぞ。まあ、本人が言ってたんだから間違いないと思うぞ。」
何時の間にそんな話を聞いてきたのか・・
「じゃ、会長の身辺調査した方がいいんじゃない?」
「ああ、それならもうやったよ。」
く!!何時の間に・・・
「お前は、お化け担当!俺は人間担当な!」
な・・・なんか不公平な気がする・・・
「で、どうなの?」
「これと言った人物は居ないな?まあ、しいて言えば熱狂的なファンが居るからそんなとこじゃないか?」
何かが違うような・・・
ふと、誰かが私を呼んだ気がした。
振り返るとそこには誰も居なかった。
「ん?なんだ?」
「ううん。何でもないよ。・・・ねえ、憐、今日の夜って空いてる?」
憐が一瞬止まった・・・(なぜ?)
「乃亜・・・俺を襲う気じゃ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・
一瞬の沈黙と、私の鉄拳は・・・綺麗に決まった。
★★★★★
夜の学校ってどうしてこう、不気味なんだろう・・・
そんな事を考えながら、静まり返った廊下を懐中電灯の明かりを頼りに、私と憐はゆっくりと辺りをうかがいながら歩いていた。
「そう言えば言い忘れてたけど、無くなった机ってな、会長の机だったらしぞ。」
それって、完璧に会長に恨みがあるって事ジャン!!なんで大事な事言い忘れてるのかな!!
ジロリと睨む私におくびれる様子もなく口だけで笑って返す憐・・・
暗い廊下を只誰にも見付からないように歩く私達に、夜の闇はとても冷たく居心地が悪いものだった。
「なあ、乃亜?」
突然憐に呼ばれ、私は足を止めた。
「何よ!」
半分怒り気味に返すと、憐が振り返った。
「お前、犯人分かってるんじゃないか?」
耳を疑ったけど・・・実はなんとなく気配は感じていた・・・犯人の・・・
「誰かは解らないけど・・・気配は感じる・・。この学園にいるのは・・」
「そうか・・」
憐は何かを知っているのか・・静かに俯いた。
「憐?」
ある教室の前に着くと、憐は立ち止まった。
「あの人が・・・犯人か?」
憐の視線の先を辿る。
・・・・・・
そこには副会長が立っていた・・・
私は目を疑った・・・
犯人だと感じていた気配と、まったく同じ気配を副会長から感じたから・・・
副会長は私達に築く様子もなく、誰かの机を愛しそうに触っていた・・
「あそこは会長の席だぞ。」
憐が私に耳打ちした。
私はごくりと唾を飲み込んだ。
副会長からは生気が感じられなかったのだ・・・
「憐!あの人副会長さんじゃない・・・」
私の言葉に憐も顔を引きつらせる。
副会長が机に向かって何かをしだした・・・・瞬間!!私は教室に飛び込んだ!!
「だめ!!」
副会長が私の方に振り返る。
その目は真っ赤に光・・・生きている人間の目とはまったく違うものだった。
憐もその顔を見て、凍り付く・・
「何で、邪魔するの?」
その言葉はとても冷たく、恐ろしい響きを含んでいた。
「貴方は、こんな事をする人じゃないはず・・・このままじゃ会長は死んでしまうわ。」
私の言葉に憐が驚き私と、副会長を見比べた。
「乃亜。どういうことだ?」
「副会長さんは・・・生霊になっているのよ。」
「貴方に何が分かるの?あの人は私のものなのよ!邪魔をしないで!!」
ものすごい形相で私と憐の方に風のように近付いてきた。
そして冷たい手で、私の首を絞める。
憐は慌ててその手を振り解こうとしたが、どうやっても解けなかった。
「う・・・・・」
私は苦しさに息を詰める。
「こんなことしても・・・むだよ・・・」
必死に声を出して、副会長を睨む。
真っ赤に光る瞳が憎しみで淀んでいた・・・
「こんなはずじゃなかったのに・・・こんなんじゃ・・・ここに来た意味が無くなるのよ!!あの人を私のものにする最後のチャンスなのよ!!」
恐ろしい声は真っ暗な教室に響き渡り、窓の閉まっているはずの教室に突風が吹き荒れた。
「『ただただ、ぐるぐるぐるぐる』あたしはそうありたくてここに来たのに、例えばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を何でまだ持ってんの?」
その言葉は、深い闇の中静かに重く響いた。
「やめろ!!!」
憐が副会長の腕にしがみ付いた!!
「あんたの勝手な片思いに、こいつは関係ないだろ!!離せ!!」
普段なら想像も出来ない憐の激しい言葉に、段々意識が遠のいていく私を、驚かせ最後の力を振り絞らせた。
「こんなことしても、会長は手に入らないわ・・・貴方は、そんなことしなくても・・・十分・・・素敵なの・・に・・」
途絶え途絶えに言葉を発し、副会長の手を優しく擦った。
副会長の指から少しづつ力が抜けていく。
一気に空気が、気管に入り込んで、私は転げるように咽返った。
「それでも、あの人は私の物にはならないのよっ!!」
副会長の苦しそうな声が胸を締め付ける。
「でも、好きなら傷つけちゃいけないでしょ。」
私はゆっくりと起き上がり副会長の手を握る。
実体のないその手はとても冷たく意識しないとすり抜けていく・・
「もう、やめましょう。貴方のためにも・・」
私の言葉を聞いた彼女は、静かに涙を流した・・・
そしてゆっくりと、只静かに闇に消えていった・・・
私と憐は腰から崩れるように座り込んだ・・・
闇は何もなかったようにまた静けさを取り戻しえいた。
★★★★★
次の日私達は、朝早く会長の教室に行くと机に何がされていたのかを知った。
椅子の足に切れ目が入っていて、次に座ったら崩れ落ち、机の下に設置されたナイフに刺さる仕組みになっていた。
私も憐も顔を見合わせ、何もなかったように机をすり替え、ナイフを危険ごみに捨てた。
誰も居ない朝の教室は昨夜の恐ろしい出来事が嘘のように爽やかで清々しかった。
ふと、前方から副会長が現れ、私達に微笑みかけてきた・・・・
私と憐は思わず、立ちすくんだ。
が・・・しかし・・・
「おはようございます。事件の方は解決しましたか?」
爽やかに、そう言われ思わず拍子抜けしてしまった。
憐が何か言いたげに口を開いたのを私が、制した。
「はい。もう大丈夫ですよ。」
そう言って微笑み返す。
副会長が立ち去ると憐が口を開いた。
「まさか覚えてないのか?昨日の事?」
「多分ね。あれは副会長さんであって、そうじゃない者なのよ。まあ、憐みたいな頭の軽い奴には分からないと思うけどね。」
悔しそうに私を睨んだ憐に何だか鼻を明かした気分になる。
鼻歌交じりで歩いていると、少しずつ生徒が登校してくるのが見えた。
「憐!もう二度とこんな事に振り回さないでね!!」
そう言って、憐の方に振り返る。
「もうあんたとは関わりたくないんだから!!」
そう言った私に憐がにやりと笑った。
「もう、次の依頼が来てるから無理だな。」
「・・・・」
「お前は、俺のペットだからな〜」
憐が今度はしてやったりって顔をしている。
やっぱりこいつは悪魔だ!!
悪魔が最後に私を打ちのめす言葉を言った。
「お前は、俺にしかなつけないだろ?」
●《自己批評》
『ちょっと続き物が書いてみたくて・・・そう思って書いているうちに何を書いているのかまったく分からない状態に陥り・・・締め切りもあと一時間と迫り・・・トランス状態で書き上げたので・・・正直この作品は・・・・・もっと、練ったのをやりたかったのに・・・次回こそはがんばります・・^^;(まいかいいってるけど・・・)なんかお題もだいぶいじってしまって・・・・もうだめだ・・本当にすみません^^;なにも浮かびません・・・^^;え〜〜〜ん^^;もうもうもうもうもうもうもう・・・・ごめんなさいwwwwww^^;』
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
☆提出順掲載
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出題者:塵子さん
作品名:『ハッピーエンド』 著:ジョージ朝倉
正解者:無し
あ、9時までって書いてあ……
2006.02.20 21:38 URL | #VWFaYlLU [ 編集 ]
名前無いけど、いつもギリギリでドア閉められるのって、彼女だよね?
ぷすすっ♪
2006.02.20 21:42 URL | 内藤初号機 #NN0jmGmk [ 編集 ]
九時ってかいてあるw^^;今送りました・・・
みそ・・・みそかw^^:
ないとこw
2006.02.20 23:18 URL | フトンみそ #- [ 編集 ]
大丈夫だよっ!
セーフ・・・にしとこうね。 お疲れ様っ!
2006.02.20 23:43 URL | 内藤初号機 #NN0jmGmk [ 編集 ]
え〜と・・・。
12時で本当に締め切るね。
提出出来る人は、待ってます♪
2006.02.20 23:49 URL | 内藤初号機 #NN0jmGmk [ 編集 ]
連載の方に手一杯で作れませんでしたorz
2006.02.21 02:36 URL | AR1 #- [ 編集 ]
ヌーーーコーーーターーーだーーー!!!!!!!!!
2006.02.22 10:00 URL | 暇子 #aiP0wTO2 [ 編集 ]
すっかり忘れてましたm(_ _)m
次回はリベンジします・・・
返り討ちだったりして_│ ̄│○
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Inspirationdetective noa
今年最初の『Mystery Circle』のお題が出ました!本当にギリギリ(内藤君の恩恵)で何とか、間に合ったんですが・・・今回は正直・・・微妙・・・もっと、煉れば良かった・・フトン的に
2006.02.23 13:33 | プリンセスドリーム





